「行けなくなったから…」SNSでチケット不正転売が横行 取引の監視に限界
チケットの不正転売が発覚した宝塚歌劇団福岡公演の会場入り口=2021年12月3日、福岡市中央区の市民会館
福岡市で昨年12月に催された宝塚歌劇団の公演で、転売が禁じられた観劇チケットがインターネットの売買仲介サイトやオークションに出回る事態が起きた。主催者の同意なく定価を超えて売りに出すのは違法行為だ。チケットの転売を巡っては、入金したのに届かないといったトラブルも後を絶たないが、ネット上の取引を規制するのは難しい現状がある。 (座親伸吾) 「1階35列41、42番が転売サイトに出ています」 不正転売は昨年10月25日、宝塚歌劇団(兵庫県)を運営する阪急電鉄から、福岡公演を主催する福岡市内のイベント業者に届いた一通のメールで発覚した。 公演は同年12月3~5日に福岡市・天神の市民会館であり、出演は「宙(そら)組」。計6回で、各回1740席のチケットは完売していた。イベント業者が調べたところ、最終公演のS席(8300円)十数枚が転売サイトやオークションに出ているのを確認。値段はその時点で、販売価格を上回るものと、定価割れの両方があった。
イベント業者は、チケットの席番号から転売に出した人物を割り出す調査を始めた。出品の取り下げを要請するためだ。 十数枚のうち9席は、福岡県内の金融関連会社が正規に購入したチケットだった。S席250席分を買い上げ、自社の顧客に無料招待券として抽選でプレゼントしていた。 「行けなくなったからネットに出した」。当選した福岡市の女性は、金融関連会社の電話連絡にサイトへの出品を認め、しぶしぶ取り下げを約束した。同社の担当者によると、女性に「悪いことをした」との認識は感じられなかったという。
◇◇宝塚のチケットは、入場券不正転売禁止法の「特定興行入場券」に当たる。同法は2019年、東京五輪・パラリンピックの開催を前に高額な転売を防ぐ目的で施行。興行主の同意なく販売価格を超えた値段での売却を禁じ、違反した場合は1年以下の懲役などの罰則が科される。 不正な転売はかつて、ダフ屋が手掛けるのが中心だった。都道府県の条例で規制が強まったこともあり、最近はネットが主流。主催者が公認した正規の転売サイトがある一方で、非公認のサイトや、SNS(会員制交流サイト)を駆使した個人取引での不正転売が横行している。ところが同法が処罰するのは売却した人のみで、最終的な購入者やサイトの管理者は対象に含まれていない。 音楽団体などでつくる「チケット適正流通協議会」の推計では、催しが軒並み開けなくなったコロナ禍の直前、国内の主な三つの非公認サイトのチケット転売は、音楽関連だけで年間数百万件に上っていた。一方、国民生活センターによると、全国の消費生活センターなどが受けたチケットの転売を巡る相談は、16年度の715件が19年度には4692件に急増。「正規の転売と間違えて高額を支払った」「入金したのにチケットが送られてこない」などの内容が多いという。