邪悪なコストを伴うコバルトは消える運命に? 「新しいバッテリー」が社会を救う
当時オックスフォード大学の教授だった物理学者のジョン・グッドイナフが、1980年に初めて充電式のリチウムイオン電池を開発したとき、彼はコバルトを必要としていた。コバルトはエネルギー密度が高く、大出力が求められる小型バッテリーにとって最適であることが、実験によってすでに証明されていたのだ。
そこでグッドイナフは、コバルトが含まれる鉱石を超高温で加熱して、自らコバルトをつくり出した。コバルトは現在、ほとんどのリチウムイオン電池に使われているが、採掘には相当な犠牲を払っている。
銀色に輝くこの金属は高価だが、それだけではない。「邪悪なコスト」が存在するのだ。コンゴ民主共和国における産出に関しては、子どもを使った採掘など人権侵害の長い歴史がある。
コバルトの使用量を減らす試み
電子機器メーカーや電気自動車(EV)メーカーは、大金を払ってこうした残虐行為に加担したくはないと考えている。こうした理由もあり、自社の電池に使用するコバルトの量を減らそうとしてきた。
例えば、テスラに電池を供給しているパナソニックは2018年5月末に、コバルトを必要としない電池を開発中であることを明らかにしている。そして同社にとって役立つことがある。グッドイナフなどの研究者はすでに、コバルトを必要としない充電式バッテリーも開発しているのだ。
リチウムイオン電池では、電池の正極はコバルト酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属複合酸化物、陰極は黒鉛系炭素を構成材料としている。この記事を読んでいる読者が使用しているデヴァイスの電池も同じ構造だ。
EVに使用するバッテリーの正極は通常、小型のデヴァイスよりもニッケルの割合が高い。そのためコバルトのサプライチェーンへの負担は軽減されるが、処理コストは高くなる。また、サムスンの悪名悪い「Galaxy Note 7」のように、飛行機内で発火する[日本語版記事]可能性が若干高まる。
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価格は2年で4倍に高騰
グッドイナフをはじめとする電池研究者たちは、マンガンや鉄など、コバルトの代替素材へと向かっている。
御年96歳でいまでもテキサス大学で工学部教授として働いているグッドイナフは、「コバルトは高価なので、人々はこれを使わずに済むよう最善を尽くすでしょう」と語る。この2年間でコバルトの価格は4倍になっている。
携帯型の電子機器が現在、コバルトの大部分を使用している。しかし、EVの電池には携帯電話の約1,000倍のコバルトが必要になる。気候変動などの理由から、エンジンを搭載したクルマを下取りに出し、EVを購入する人の数が増え続けている。こうした傾向は地球にとって好ましいことではあるのだろうが、コバルトの価格を急騰させる結果となっているのだ。
コバルトは、ニッケルや銅などほかの金属の生産過程で出る副産物だ。だが単独でも地殻に存在しており、主にコンゴ民主共和国の鉱山に見られる。『ワシントン・ポスト』は2016年に、これまで不透明だったコバルトのサプライチェーンを調査し、児童労働の慣行と、必要な装備の不足を明らかにしている。
もちろん、採掘の危険を回避する方法はほかにもある。「リサイクル(再利用)」だ。しかし、リチウムイオン電池の寿命は非常に長いため、「今後10年間にリチウムイオン電池を購入する人の数は、手放す人の数を上回るでしょう」と、マサチューセッツ工科大学でエネルギーを研究しているエルサ・オリヴェッティ教授は説明する。
研究者が注目する「全固体電池」
オリヴェッティは17年10月に発表した論文で、特に電気自動車が増加している現状で、今後2年間の需要を満たすには「コバルトの供給をすぐに増やす必要がある」と結論付けている。正極の開発とコバルトの調達の両方が過去8カ月で進んだものの、「われわれ全員がコバルトについて、“もっとよく考えなければならない”という、一般的結論は変わらないだろう」と論文には書かれている。