海外で育った僕にとって、誰も日本に興味を持ってくれなかったのが悔しかったーーQuantstamp日本代表、小田啓氏が語る「ブロックチェーンをやる理由」
Quantstampはイーサリアムのスマートコントラクトにおけるハッキングの脆弱性、安全性を事前に発見するためのセキュリティー監査プロトコルを提供している。
2017年にはY Combinatorのアクセラレータプログラムに採択され、2018年2月にはプロサッカー選手・本田圭佑氏のファンドKSK Angelから資金調達を完了させるなど、ブロックチェーン業界をリードしているスタートアップだ。
前回の記事では、創業者でCEOのRichard Ma (リチャード・マー)氏に「なぜ日本がブロックチェーンにとって世界から注目されているのか」を中心に同社の日本市場進出のバックグラウンドストーリーを聞いた。
今回は、QuantstampにてAPACリード並びに日本法人の代表を務める小田啓氏に今後の活動方針やビジョン、そして今までの経歴からなぜブロックチェーンにたどり着いたのかなど話を聞いた。
「海外で育った僕にとって、誰も日本に興味を持ってくれなかったのが悔しかった」ーーこう切り出した小田氏は、Goldman Sachs(以下、GS)にて16年間債券トレーダーとして活躍した経歴を持つ人物。2000年のGS入社組の同氏は、2007年から2011年の世界が一番荒れたといえる「金融危機」や「欧州危機」の経験者だ。
小田:債券トレーダーという立場で金融領域にいたので、物事を常にマクロ的に見る必要がありました。そのため色々な各国の出来事や、新しいテクノロジーに対して常に興味を持って観察する機会が多かったんです。
そして、2010年くらいに初めて”ビットコイン”という存在を目にしました。その時点では”どうせ詐欺でしょう“という感覚でしかとらえていなかったのが正直なところです。ただ、それがきっかけで調べようと思ったのは間違いないですね。
2010年に初めてビットコインと出会ったという同氏。それをまたぐかのように、2007年の金融危機、2011年には欧州危機を経験した。ただ、当時はビットコインを仮想通貨の一種としかとらえておらず、そこからブロックチェーン的に事象を考えるまでには進んでいなかったという。
同氏によれば、そんな状況が変わったのは2013年頃。そう、初めてビットコインが1000ドルを超えようと急成長を見せ始めた時期だ。
小田:存在を何となく知っていた状態から、本気でリサーチしてみようとなったのは、知らない間にビットコインの価格が1000ドルを超えだしたことがきっかけでした。仮想上のコインという概念に、なぜそんな価値が付いているのか。金融トレーダーとしてはもう放置できない状態でしたね。
GSの同僚には後にbitFlyerを創業することとなる加納裕三氏がいたりと、ビットコインや仮想通貨といった話題は同社内でも一般的になっていたと話す。
そして、2017年頃になるとビットコインが「BTC」として世界的通貨としての役割を担いだす。小田氏はそこあたりでGSを退職し、遊び感覚で少額のビットコイントレードを始めた。ただ、その時点でも同氏のビットコインに対する考えは単なる通貨に留まっていて、ブロックチェーン的な思考までには至っていなかった。
小田:ビットコインが世界通貨として価値を持ち出していることは理解していました。ただ、正直そのバックグラウンドは”アナーキストが大好きそうなもの“的な考えに留まっていたんですよね。しかし、イーサリアムとの出会いでその考えは大きく変わることとなります。
リチャードの言葉を借りるならば、ビットコインは「Donation(One-Way)」的。そしてイーサリアムは「Bidirectional」的。イーサリアム・スマートコントラクトの持つDISRUPT性を、この観点で感じ取ったと同氏は語る。
小田:ブロックチェーンを使ったアプリケーションが、単なるダークウェブ用のもので終わらないことにイーサリアムと出会って気が付きました。特に金融機関にいた私にとっては、ファインナンスの世界に大きなムーブメントを起こすだろうな、と。
ただ、何より日本が海外からブロックチェーン市場として注目されていたことが嬉しかった。今まで、日本はどんな分野だろうと、ある程度の影響力は持つけれど、世界的注目度をここまで集めることはできなかった。初めてそういう逆回転が起き始めていると感じたんです。それが2017年の半ば頃でした。
では、どのような経緯で数ある”ブロックチェーンプロジェクト”の中からセキュリティー監査企業Quantstampと運命の出会いを果たしたのか。同氏は以下のように語る。
小田:2018年頃、毎週いくつものICOが世界中で開催されているような時期に、ドットコムバブル時の雰囲気とすごい重なるものを感じたんです。インターネットのバブル時代、結果的に最後まで生き残ったのはインフラやセキュリティー系の企業が多かった。そう考えていた時、ちょうどコインチェック事件が起きた。
インターネットバブル時代とブロックチェーンICO全盛期を比較し、どの分野が今後も生き残るのかを分析した同氏。そして、アプリケーションの実需用を増やしていくためにもセキュリティーはインターネット時と変わりなく重要な役割を担っていることを再認識した。そのような出来事を経て、最終的にQuantstampへと同氏の道は繋がっていたようだ。
小田:ブロックチェーンにおけるセキュリティーという観点で、Quantstampの活動については、元々自分なりにリサーチをしていました。いくつか直接聞いてみたい疑問があったので、彼らが参加するカンファレンスに行ってみたんです。そしたらリチャードやその他のメンバーと話す機会があって。自分が考えるブロックチェーンのこれからや、市場において求められるセキュリティーのサービスなどを議論していたら、最終的に“Quantstampにジョインしないか?”とその場でリチャードが誘ってくれたんです。
もちろんそんなつもりで会いに行ったわけではなかったし、まさかオファーが来るなんて思っていませんでした。 そんな急な展開でしたが、Quantstampが日本市場進出を大きく考えていることや彼らのブロックチェーンに対する考え方を聞いて、その場でジョインすることを決めました。彼らの考え方に共感できたのはもちろん、自分が協力できることがそこには絶対あると思ったことが、決断の一番の理由でした。
「”ブロックチェーン”を理解しないとサービスが使えないなら、マスアダプションは厳しい」ーー小田氏は、このように考える理由を、再度インターネットの発展を振り返りながら以下のように説明してくれた。
小田:世界はこれからもっと、デジタル化が進んでいくと思っています。そのファーストウェーブには、ハンドリング可能な情報量が増えてきていることがありました。今まさに4Gから5Gへと移り変わろうとしていますよね。
これを超えると今までとは桁違いなデータ量を扱えるようになります。だけど、たった25年前を振り返れば、Emailですら送信するのに莫大な時間がかかっていた。もはや手紙を走って持って行った方が速いレベルだったのが、今やここまで進化を遂げているんです。
インターネットの発展を分解していくと、4Gから5Gへの移り変わり、つまりハンドリング可能な情報量の増加はその発展の中でも大きな意味を持ってくる、と。ではそのトランスフォーメーションの中で、ブロックチェーンはどのような立ち位置として見ているのだろう。
小田:扱えるデータ量が増えていく中で、もちろんそれをどう生かすかは人間次第。だけれど、それをどう安全に守ったり、信頼性を検証していくかはプログラムが担当していくと思っています。その分野こそ、まさにブロックチェーンやスマートコントラクトが適任な技術となってくるのだと考えています。
つまり、インターネットが進化しデータ量が増えていく中で、ブロックチェーンのユースケースは増えてくる、そう考えています。その観点でいえば、一つのユースケースとして最初に広まったのは仮想通貨だったけど、10年先の未来になったら普段使っている電話のアプリとかがブロックチェーン上で何事もないように動いていても不思議には感じないと思います。
同氏は続けて、将来的にブロックチェーンがマスに対してどういう存在になっているべきかを語る。
小田:近い将来では、ユースケースが増えたとしてもブロックチェーンを使っている、なんて感覚になることはないんだと思います。インターネットだって、例えばストリーミングの技術がどういうバックグラウンドでサポートされているのかなんて普通は知らないし興味もない。逆に言えば、ブロックチェーンもその裏の仕組みが分からなければ利用できない状態なのであれば、きっとマスアダプションは厳しい。
つまり、”ブロックチェーンさが無いブロックチェーンサービス“をどう生み出していくか、が問われている、と。
この実現を長期的視点で目指していく市場として「日本は世界的にも貴重な環境」と前回のインタビューでリチャードが述べていたことが思い浮かぶ。最後に小田氏は日本市場を担うことへの期待を語ってインタビューを締めくくってくれた。
小田:そういう風になっていくと思っている中で、日本やAPACは特にブロックチェーンを持ちいたビジネスアプリケーションに熱を持っている印象を受けています。そんな環境で、ビジネスを広げていくという役割は本当に楽しいし、ワクワクします。
確かに、ブロックチェーンはまだ技術的に解決しなければならないことは多いし、まだ『画像をダウンロードするのに数分かかる時期』。だけれど、インターネットの25年より早くアダプションの時間軸は進んでいくと思うし、なによりそれを少しでも早められるように牽引していきたいと思っています。
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