オイルショックにスタグフレーションの懸念まで…韓国経済「視界ゼロ」
「危険の大きさを測りかねる」 ロシアのウクライナ侵攻による韓国経済の今後の流れについて、エコノミストとして経験豊富な専門家たちも簡単に答えを出せない。予測のための前提自体が不確実であるためだ。 韓国銀行調査局長出身のチャン・ミン韓国金融研究院先任研究委員は8日、本紙の電話取材に対し、「常に経済には不確実性が存在するが、今回は特に大きい。実体経済が受ける衝撃の程度を現在としては測れない」と述べた。これにより、マクロ経済政策の2本柱である財政政策と通貨政策も、方向を定めるのが難しくなるものとみられる。物価を安定させようとすれば景気を泥沼に陥れかねず、景気を下支えしようとすれば物価と市場金利を刺激しかねないからだ。ブラックボックスの中の「ロシアリスク」 専門家らは、「ロシアリスク」の大きさを予測するのは難しいと口をそろえて言う。ロシアと韓国の間を媒介する欧州と米国の金融機関が、ロシアとどの程度絡んでいるのか把握しにくいからだ。隠れた「取引相手(カウンターパート)リスク」が大きく表面化した場合、予想より大きな金融不安とそれに伴う実体経済の衝撃が発生する可能性があるという意味だ。 匿名の韓国銀行幹部は「経済がグローバル化し、金融機関間の国境を行き来する取引が多くなった点を念頭に置けば、1998年のロシア財政危機よりもその衝撃が大きいかもしれない。さらに深刻なのは、こうした『関連性』が明確に把握されていないところにある」と述べた。欧州や米国の各投資銀行がロシアの国債や原油などの原材料を基盤に作った派生商品が、金融不安の引き金となる余地もある。 一部の専門家は、ロシア国債の最初の満期が到来する16日が過ぎれば、ブラックボックスに包まれたロシア金融のつながりがある程度明らかになると期待している。国債が償還されなかった金融会社など投資家の面々が明らかになり、どれほど広くまた深くロシアリスクが西側世界に浸透しているのか、その輪郭が表れる可能性があるという。しかし、これもやはり「限界」ははっきりしている。 チャン・ミン委員は「ロシアは(2014年クリミア半島併合以後、西側世界の)制裁を受けてきたため、透明な取引よりは帳簿上では見えない取引が多い可能性がある」と述べた。物価はさらに高く、景気はさらに悪く 確かなのは、韓国銀行と政府をはじめ民間機関が見通した通りに今年の韓国経済が流れる可能性は「ゼロ」に近いという点だ。見通しの前提が根こそぎ揺らいでいるためだ。 専門家らは特に、最も大きな突出要因として国際原油価格を挙げる。すでに国際原油価格は1バレル当たり130ドルの突破を目前に控えている。昨年末、政府が今年の経済見通しを発表する際、前提とした国際原油価格はバレル当たり73ドル(年平均)だった。LG経済研究院のイ・グンテ首席研究委員は「あまりにも不確実性が大きく、どこまで(原油価格が)上がるか予測が難しい」と述べた。米国が検討しているロシア産石油禁輸措置が実際に断行され、石油輸出国機構(OPEC)の増産協議が円滑に行われない場合、1バレル当たり150ドル超えもあり得るという分析もある。 これについて、一部では物価上昇を伴う景気低迷を意味する「スタグフレーション」が今年現れる可能性もあるという声もあがっている。2期連続のマイナス成長が現れる場合を景気低迷とみなすことから、スタグフレーションを予測するのはまだ早いかもしれないが、高いレベルの物価や景気減速は避けられないという意味だ。イ・グンテ委員は「当初、今年上半期までは景気回復が続くとみていたが、現在としては直ちに景気が低迷する可能性もある」と述べた。延世大学のソン・テユン教授(経済学)は「韓国経済はすでにスタグフレーションに向かっている」と診断した。対応もジレンマに陥るか 専門家らは、マクロ経済政策の両軸を担っている政府と韓銀がジレンマに陥りかねないとみている。物価と景気のどちらも切り捨てられない状況が展開され、政策当局が複雑な方程式を前にしているためだ。 現代経済研究院のチュ・ウォン経済研究室長は「景気が急速に冷え込むと補正予算の編成を通じて防御はできるが、物価の高止まりが続けば、(政府が)補正予算の規模を大きくするのは難しい」と指摘した。イ・グンテ委員は「コロナ禍への対応で政府財政の赤字が大きく膨らんだ上、今は需要の萎縮ではなく供給の衝撃がより大きな問題であるため、政策対応が容易でない」と述べた。匿名の企画財政部の幹部は「(通貨政策との)絶妙な政策の組み合わせが必要な状況だ。現在としては状況を見守るしかない」と述べた。イ・ジョンフン、チョン・スルギ、イ・ジヘ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)