EVsmartブログ電気自動車や急速充電器を快適に EV用可搬型急速充電器を発売したベルエナジーを直撃取材レポート 人気記事 最近の投稿 カテゴリー
緊急時に活躍するEV用急速充電器が登場
緊急事態宣言も明けた6月下旬のある日、筆者はEVsmartブログの寄本編集長が運転するリーフに同乗して、茨城県つくば市の『ベルエナジー』を訪ねました。EVsmartブログにベルエナジーから、電欠した電気自動車(EV)をレスキューする急速充電器『ローディー』を発売するというお知らせがきたのがきっかけでした。
昨年から今年にかけて、大雪のために高速道路上で大規模な立ち往生が続けて発生しました。2020年12月には関越道で2000台以上、2021年1月には北陸道で1500台以上が巻き込まれ、自衛隊が出動する事態になりました。
その時にネットを中心によく見かけたのが、EVが立ち往生して電欠したら助けられないじゃないか、というネガティブ発言です。エンジン車なら給油ができるけどEVが電欠したらどうにもならないのではないかというものです。エンジン車でも雪の中で立ち往生したら排ガス中毒の心配とかいろいろ大変なのですが、ここでは横に置いておきます。
それに電欠の点は確かに、不安材料がなくはないです。携行缶にガソリンは入りますが、電気は貯められません。後述するように日本自動車連盟(JAF)は1台だけ給電車を持っていますが、運用は難しいという考え方です。
そんな問題を解決しそうなのが、可搬型の急速充電器『ローディー』です。この手があったか、と手を叩きました。
と言うわけで、『ローディー』を販売しているベルエナジーでお話を聞いてきました。場所は茨城県のつくば市です。
ベルエナジーが入居しているビルの地下駐車場で、寄本編集長がリーフを止めると、待ち構えていたようにベルエナジーの川井宏郎フェローが台車に『ローディー』を乗せて現れました。
さっそくリーフに接続します。『ローディー』はCHAdeMO(チャデモ)規格に対応しているので接続は簡単です。コネクターに差し込んでメインスイッチを押すと、インジケーターのランプが点灯して通信を開始。すぐに充電が始まりました。
スタンドアローンの急速充電器の可能性
取材の間に充電しておくことにして、お話をお伺いしました。対応していただいたのは川井さんに加えて、ベルエナジーの執行役員兼財務部長の萩野谷仁さんと、新規事業部課長のエリック・手島さんです。
ベルエナジーはもともと、米国に本社を持つBell Circuits Group Inc.の子会社として設立されましたが、2006年に独立し、2015年に「Bell Energy株式会社」 に名称変更しました。それまでは太陽光発電を中心に事業を行っていましたが、2017年にEV用充電器を開発、製造しているアメリカのFreeWire社に出資して蓄電池やEVの関連事業に参入し、充電器などの輸入販売を始めました。
現在、扱っているのは、新たに発売した『ローディー』の他、可搬型のEV用普通充電器『Mobi L2』や、可搬型蓄電池『Mobi Gen』、それにキュービクルのいらないEV用急速充電器『Boost Charger』などです。ひとつずつ順番に見ていきたいと思います。
まずは新発売の『ローディー』です。開発したのはマサチューセッツ州ボストン郊外に拠点を構えるスタートアップ企業、SparkCharge(スパークチャージ)です。地図で場所を見ると、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学から数キロに位置していて、なんとなく優秀な人が集まりそうなイメージです。
『ローディー』の特長は、チャデモ規格に対応した急速充電が、場所を選ばず手軽にできる点にあります。ユニットは、チャデモコネクターを装備したコントローラー部と、3.5kWhの容量を持つバッテリー部で構成されています。バッテリーユニットは、1個でも使えるし、最大4個、14kWhまで接続することもできます。
販売は、コントローラーユニット1個とバッテリーユニット2個の組み合わせが標準セットになっていて、198万円(税別)です。バッテリーユニット単体なら66万円(税別)で購入できます。もちろんリチウムイオンバッテリーです。
接続は簡単で、ユニットを重ねて積むだけです。もし非常用給電で使うなら、バッテリーユニットを複数台、用意していけば、組み替えるだけで複数のEVに充電できるわけです。バッテリーユニットの重さは約30kgなので、ひとりでも持てそうです。ちなみに寄本編集長は、ひとりで持って運んで、接続することができました。
充電時の出力は最大20kWなので、10分で約3.3kWh、15分で5kWhくらいが入る計算になります。1kWhで5km程度の電費のEVの場合、10分~15分の充電で約17km~25kmくらいの走行分という感じでしょうか。
逆に『ローディー』に充電する場合は、100Vで4時間が目安になります。
『ローディー』は、ベルエナジーが7月1日から法人を対象に予約受付を開始します。ボストンから船便で輸送するので少し時間がかかりますが、ベルエナジーの手島さんによれば、早ければ受注から2か月程度で提供できるとのことです。
『ローディー』であればバッテリーユニット3個にしても余裕で軽自動車に搭載できるので、大きくて高価な給電車は不要です。これからのロードサービスの必需品になるといいですね。
EV先進国の使い方を聞いて納得の移動式普通充電器
次は、同じく可搬型のEV用普通充電器『Mobi L2』にいきましょう。開発したのはサンフランシスコ空港からサンフランシスコ湾をはさんだ対岸に本社を置くFreeWire Technologies(フリーワイヤー・テクノロジーズ)です。ちなみにベルエナジーは、FreeWire Technologiesに出資しているだけでなく、製品開発に際し日本向けの仕様変更やカスタマイズなども担当しています。
FreeWire Technologiesはスタートアップ企業ではありますが、ABBやbpなどからの出資を受けていて、とくにbpが進める急速充電設備の拡充にはこれから大きな役割を果たしそうです。
実は筆者は、『Mobi L2』の話を聞いたときに「どこで使うんだろう?」と疑問を抱いていました。急速充電器ならレスキュー用があるとは思いましたが、充電に時間のかかる可搬型の普通充電器って何のために? という感じです。でも手島さんの話を聞いて、納得すると同時に「EV先進国すげー!」と驚きました。
手島さんによれば、Google、Facebook、マイクロソフトなどの共同駐車場では、すでに7〜8割の車がEVになっているそうです。アメリカの駐車場には普通充電器が何台も設置してあるのも珍しくないし、IT業界の3巨頭みたいな企業が使う駐車場なら間違いなく多数の充電器があるはずですが、停めているクルマがほとんどEVになると話は別です。
限られた充電器をEVユーザーが交代で使うためには、車を移動しなければなりません。そうすると1日に20~30分は使うことになり、社員の数を考えると厖大な時間数になってしまいます。実際、Googleなどでは社員が毎日、車の移動のためにオフィスと駐車場を往き来していたそうです。
そこで『Mobi L2』の出番です。手島さんの話では、アルバイトの専従スタッフが『Mobi L2』を動かして駐車場内のEVに充電して回っているそうです。
Mobi Workplace Charging(YouTube)
『Mobi L2』は、バッテリー容量が80kWhあるほか、6kWの普通充電のコネクター(SAE J1772)が2口ついていて最大12kWで充電できます。またリモコンで自走できるので、駐車場内を回るのも難しくありません。EVは動かずに、充電器が動きます。移動式の充電サービスですね。
これに加えて、充電器としてではなく、100Vや200Vがとれる蓄電池として使える『Mobi Gen』もあります。基本的には、『Mobi L2』の充電コネクターの代わりに、100Vや200Vがとれるコンセントを装備したものです。
手島さんは、Googleの駐車場に並んだ何十台ものキッチンカーが『Mobi Gen』の電気を使っているのを見たそうです。なるほど、これもまた納得の話です。Googleの駐車場は別格ですが、例えば大規模なイベントだとまとまった数の屋台が出ますし、イベントそのものでも電気を使います。発電機のブォンブォンという音がしないうえに排気ガスを出さない『Mobi Gen』は、グリーンなイメージづくりにも一役買いそうです。
工事を大幅に簡素化できる急速充電器も
もうひとつ、ベルエナジーが取り扱っている新しい設備を紹介します。『Mobi L2』や『Mobi Gen』と同じくFreeWire Technologiesが開発した急速充電器の『Boost Charger(ブースト・チャージャー)』です。この急速充電器の最大の特徴は、高圧受電設備(キュービクル)が不要なうえ、本体にコントローラーや決済端末などを搭載したオールインワンになっていることです。
急速充電設備のネックのひとつは、多額の工事費です。キュービクルの設置には本体以外に設置工事で数百万円がかかります。もちろんキュービクルのための場所も必要です。
これに対して『ブースト・チャージャー』は、本体内にリチウムイオンバッテリーを搭載し、低圧受電契約のまま本体に充電できるため、キュービクルが不要なのです。バッテリー容量は160kWhで、日本向けはチャデモ規格のコネクターを2口装備し、2台同時の充電なら1口につき最大60kW×2で120kW、1台なら最大100kWでの出力が可能です。ちなみに英国など現地ではチャデモとCCS2(コンボ)に対応していて、CCS2の場合は1台なら最大120kWで急速充電ができます。
内蔵しているバッテリーは、リーフのバッテリーと同じです。リーフのバッテリーを生産しているエンビジョンAESCとFreeWire Technologiesは、2020年12月にバッテリーの供給に関する提携を発表しました。手島さんによれば、エンビジョンAESCのテネシー工場で生産したバッテリーが使われています。
さきほど少し触れたように、FreeWire Technologiesには巨大エネルギー企業のbpやABBなどが出資しています。bpがFreeWire Technologiesに出資しているのは、bpが、子会社のbpパルスやコンビニエンスストアのampmなどを通して進めている公共急速充電ネットワークの拡充のためです。
手島さんによると、bpは既存のガソリンスタンドに急速充電設備を設置していますが、従来の設備を作る場合には工事のために1か月ほど、スタンドを閉鎖する必要があるそうです。でも『ブースト・チャージャー』であれば、設置場所の基礎工事を先に済ませれば、本体の設置は約3時間で完了するとのことです。
それにキュービクルの場所が不要なので、ガソリンスタンドのスペース効率も高くなるし低圧受電契約なので高圧受電契約よりも電気料金が安く、ランニングコストを低減できます。
日本では、ベルエナジーが製品をカスタマイズし、契約代理店が販売と設置を請け負います。2021年6月18日に日経新聞は、電気・ガス料金の比較サイトを運営するエネチェンジが『ブースト・チャージャー』の販売を開始することを報じました。
課金は時間課金と従量課金の両方に対応していて、2022年4月に始まる予定の特定計量制度を利用すれば、kWh単位の従量課金が利用できます。決済は、クレジットカード(現在はVISAとMasterに対応)のスキャンとFeliCaなどの非接触システムを搭載しているので、会員登録不要で利用できるのも嬉しい部分です。
エネチェンジのリリースによれば、予約販売受付は6月21日から始まっています。設備オーナー向けにエネチェンジから料金プランを提案し、内容によっては基本料金0円で急速充電サービスを始めることができるということです。
また輸入元のベルエナジーでは現在、チャデモ検定の取得を検討中です。認証を受けることができれば政府の補助金を利用できるようになるので、設置費用の大幅な削減になります。
というわけで、取材を終えて帰る頃には『ローディー』による充電は終わっていました。バッテリー残量は70%まで回復。これで帰る途中に充電する必要がなくなりました。出先で手軽に充電できることでEVの使い勝手が一段も二段も上がることを改めて実感した1日でした。
多様な充電方法がモビリティを変える
話は変わりますが、経済産業省の「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」の中で日本自動車連盟(JAF)が説明した資料によれば、2020年度のEVに対するロードサービス全5804件のうち、EVの電欠が573件と、約1割を占めていたそうです。もっとも電欠の割合は年々減っていて、2016年度の17.8%が、2020年度には9.9%になっています。
ただし、EVのロードサービス件数は2016年度の3547件から、2020年度には5804件に増えているので、電欠の数そのものは2016年度の631件から大きく減っていません。むしろコロナ前の2017年度~19年度は700件以上になり、増える傾向がありました(2021年4月16日の配付資料 ※PDF)。
電欠車のレスキュー方法は、JAFの資料によれば急速充電場所への搬送だけです。給電車は1台ありますが、救援場所、給電車の価格、ランニングコストの問題から運用は困難だそうです。補足すると、EVによっては駆動輪を設置させて牽引すると故障する可能性があるので、つり上げが必須です。全輪駆動の場合はローダーが必要だったりします。
JAFの資料は雪による大規模立ち往生の後に出てきているものなので、EV普及への課題として取り上げられたのではないかと推察されます。会議から何か月も経っているのに経産省が議事録を公開していないので、正確な内容がわからないのがフラストレーションです。
仮にここで、災害時のEVの電欠がエンジン車のガス欠と比べて問題という指摘があったとすれば、ネガティブキャンペーンに利用されそうです。でも、今回紹介した『ローディー』や『MOBI L2』があれば、レスキュー時の給電問題はかなり解消されそうです。EV普及に消極的な意見に対する反論になるのは間違いありません。
それとは別に急速充電設備の現状を見ると、日本では設置が早かったために旧式化していることが否めず、しかもEVの台数が伸び悩んでいることもあって設備の更新が先送りになっています。設置コストが節約できる『ブースト・チャージャー』のような新技術で、これまでの課題を乗り越えることを期待したいと思います。
可搬型の急速充電器といい、従来より大幅に簡易な工事で済む急速充電設備といい、EV普及のための土台である社会インフラ形成に役立つ技術が日本に入ってくるのは嬉しいことです。技術開発によって充電方法の幅が広がれば、モビリティの変革への追い風になりそうです。
(取材・文/木野 龍逸)