ジュディ・デンチが語る、愛と人生と演じ続けることについて。
ジュディス・オリビア・デンチの真骨頂は昔もいまも二面性、つまりスターの輝きを放つ普通の女性というところにある。ある一面において、彼女はあなたが思い描くような快活な国の宝だとためらうことなく断言しよう。こんな爽やかな気持ちのいい朝に、サリー州の田舎にある自宅でアスレジャーなベージュの服に身を包んだデンチの姿は、見る者の心をなごませる。やかんを火にかけ、スーパーマーケットのパン・オ・ショコラをトレイに載せ、愛されメーターは最大値設定だ。デンチが大のシャンパン好きであるのは有名なので、ぼくは彼女に〈ドンペリニヨン ヴィンテージ 2008〉のボトルを持参した。これを贈呈すると、トレードマークであるあの声でその日最初の素敵なコメントを聞かせてくれた。「こんなに幸せなことはないわ!」彼女は満面の笑みを浮かべる。俳優としての彼女の力はすさまじいので、一瞬、ぼくはこれまで彼女に贈りものをした人はいなかったのだと思いこみそうになる。
実際のところ、デンチの人たらし的なその能力は、いまや業界規模で大衆の愛情を欲しいままにしているといっても過言ではないだろう。そして彼女の60年間におよぶ職務経歴書を見れば、その理由もわかろうというものだ。演劇学校を卒業して1950年代後半にオールド・ヴィック・シアターでオフィーリアを演じた彼女は、何十年間にもわたってロイヤル・ナショナル・シアター、ウェスト・エンド・シアター、ロイヤル・シェイクスピア・シアターに君臨しながら、華麗な演技でおそらくは20世紀後半におけるもっともすぐれたマクベス夫人やクレオパトラをやりきってきた。
それだけでなく、テレビのホームコメディや歴史ドラマに出演してイングランド中部を魅了していたと思ったら、1998年に『恋におちたシェイクスピア』でエリザベス一世を演じ、64 歳にしてアカデミー賞助演女優賞を受賞して大ブレークを果たしたのである(デンチ自身はそれを「ひどい歯並びでのわずか8分間の演技」と呼ぶ)。こうして彼女は世界的に知られるようになり、あまりにすごい人気なので、何年か前にTシャツにプリントする最高に不快な文句はなにかとたわむれに考えはじめた作家アラン・ベネットが、テロ行為から児童虐待といったテーマを検討した結果「ジュディ・デンチが大嫌い」がもっとも大衆を激怒させるという結論を出したほどなのである。