SIMロックは21年秋に原則禁止──総務省が携帯3社に求める施策案まとめ(佐野正弘)
菅政権の肝入りで進められてきた携帯電話料金引き下げと、競争促進に向けた総務省の有識者会議での議論。その主な舞台となった有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の下に設けられた「スイッチング円滑化タスクフォース」の報告書が2021年5月28日に公開され、同WG自体の報告書も案を取りまとめる段階に入っていることから、一連の議論は終盤を迎えつつあるようです。
そうしたことから改めて、総務省が携帯電話市場の公正競争に向けてどのような策を取ろうとしているのかを改めて確認したいと思います。まずはスイッチング円滑化タスクフォースの報告書を見ますと、この会議で当初の議題に挙げられていた施策がほぼそのまま反映されているようです。
その1つは「eSIMの促進」で、携帯大手3社にスマートフォン向けeSIMサービスの提供を「2021年夏頃を目途として導入することが適当」としているほか、フルMVNOではないMVNOでもeSIMによるサービスの提供ができるよう、遠隔でSIMの書き換えができるRSP(Remote SIM Provisioning)機能を開放することが適当としています。
2つ目は「SIMロック解除の一層の推進」で、SIMロックは「原則として禁止」する方針を打ち出しています。ちなみに「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」の改正案が適用された場合、2021年10月1日以降に販売される端末がSIMロック原則禁止の対象となるようで、その対象も「いわゆるフィーチャーフォン、スマートフォン、タブレット、モバイルルーター及びUSBモデム」と多岐にわたるようです。
3つ目は「キャリアメールの『持ち運び』の実現に向けた検討」。携帯各社のいわゆるキャリアメールは他社に移ると使えなくなりますが、一定のニーズがあることから持ち運びの実現が適切としています。その方法については元々契約していた携帯電話会社側が引き続きメールを管理し、他社サービスからも利用できるようにする「変更元管理方式」が適当とされ、時期は「2021年中を目処に、できる限り速やかに実現することを目指すことが適当」のことです。
そして4つ目は「MNPの手続の更なる円滑化に向けた検討」です。現在、番号ポータビリティ(MNP)で他社に乗り換える方法は、移転元で予約番号を発行し、移転先で予約番号を入力する「ツーストップ方式」となっていますが、これを移転先の事業者の手続きだけでMNPを済ませる「ワンストップ方式」に変えることで、利便性向上に加え移転元による引き留めを防ぎたいというのが総務省の考えのようです。
ただワンストップ方式への移行には、携帯大手だけでなくMVNOからも、手間やコストがかかるとの声が多く出たようです。それゆえこちらは他の3つとは異なり、「可能な限り早期に実現することが望ましい」としながらも、ワンストップ方式を実現するための方法やシステムの検討を引き続き進めるという形に落ち着いています。
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一方、2021年7月9日に実施された「競争ルールの検証に関するWG」の第22回会合で公表された「競争ルールの検証に関する報告書 2021」の案を見ますと、モバイル分野での問題点の1つとして「既往契約」、要は2019年の電気通信事業法改正以前のプラン契約者がまだ多く残っていることが挙げられます。
既往契約者はいわゆる“縛り”を長期間受け続け乗り換えを阻害する要因となることから、報告書案では「公正な競争環境を整える観点からは、既往契約を早期に解消するべき」としています。中でも問題視しているのが“4年縛り”とも呼ばれた法改正前の端末購入プログラムで、とりわけKDDIとソフトバンクは法改正前の端末購入プログラム契約者が2021年3月時点で5割を超えるなど多く残っていることから、極力早期の解消を求めるとしています。
そしてもう1つ、現在携帯各社が提供する新しい端末購入プログラムに関しても、総務省の覆面調査でキャリアショップでの非回線契約者に対する販売拒否が相次いだこと、3社が非回線契約者でも契約できることを積極的にアピールしていないことなどから、実質的な囲い込みに使われているのではないかと問題視しているようです。
それゆえ報告書案では「条件の差異の解消」と「正確な説明、周知の徹底」を求めており、一定期間経過後も現状の状態が続く場合は「端末購入プログラムによる利益提供が実態として通信料金と端末のセット販売を条件としているもの」とし、分離を徹底するとしています。2021年6月には楽天モバイルも、iPhoneを対象とした端末購入プログラム「楽天モバイル iPhone アップグレードプログラム」を開始していることもあって、総務省側は一層、端末購入プログラムに対する問題意識を強めている印象です。
その他にも今後の課題として、音声通話料が30秒20円(税抜き)で10年以上高止まりしていることや、販売代理店が抱える構造上の問題、オンライン解約手続きや非回線契約者への端末保証サービスの提供など、いくつかの要素が挙げられています。それらのいくつかは自主的な解消を求めるとしていますが、それが進まなければ「対応を促すインセンティブを与える仕組みも考えていくことが適当」としており、今後の周波数割り当てや再割り当て審査に、公正競争促進に関する要素が盛り込まれる可能性も高そうです。
一連の内容を振り返ると、総務省が2020年に掲げた「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の思惑がほぼそのままの形で反映され、とりわけ寡占が指摘されている携帯大手3社には非常に厳しい内容になったといえるでしょう。ですが一連の内容を見ると、アクションプランでいうところの「消費者の一層の理解促進」の部分に関して言及がほとんどなかったことが、どうしても気になります。
例えばeSIMに関しては、先日取り上げたLINEMOの「ミニプラン」の説明会において、ソフトバンクの常務執行役員である寺尾洋幸氏が、サービス開始当初eSIMの契約手続きで非常に多くの問い合わせを受けたと話していました。その理由は、携帯大手のメインブランドでの契約に慣れた人達が、「SIMロック解除」「APN」「プロファイル」といった言葉やその設定を分かっていなかったりして、思うように契約が進まなかったためだったとのことです。
そこでソフトバンクでは400以上の改善を加え、ようやく通常のSIMカードと同等の評価を得るに至ったとのこと。ある程度スマートフォンに詳しい人をターゲットにしたLINEMOでさえそのような状況なのですから、携帯大手がメインブランドでeSIMを大々的に展開したとなれば多くの混乱が起きることは目に見えていますし、それを競争政策の目玉に据えるのは無理があるように感じてしまいます。
また既往契約に関しても、筆者がプライベートでスマートフォン料金の相談に乗ったり、シニアや主婦向けメディアなどの仕事で得たりした経験からすると、そもそも毎月の明細さえ確認せず、自分がどの料金プランを契約しているのかさえ知らないなど、携帯電話料金への関心が低い人が多いことが要因と感じています。総務省の打ち出す施策は高リテラシー層にしか恩恵を与えないと感じるものが多く、消費者の意識を変えリテラシーを高める施策が圧倒的に不足している印象を受けるのです。
もちろん総務省も、2020年4月に料金見直しに向けた「携帯電話ポータルサイト」の正式版を立ち上げるなどの取り組みは示しています。ですが消費者の側に向けてもっと踏み込んだ施策をしなければ状況は大きく変わらず、規制ばかりが増えて業界全体が疲弊する一方……となってしまいそうなのが気がかりでなりません。
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