万博は関西の先端技術開発・実証力を示す好機
ジェトロは3月3日、オンラインシンポジウム「コロナ後の未来社会、EXPO2025への期待、関西の可能性~世界との共創、そしてSDGs達成へ~」を開催した。基調講演など(2021年3月30日記事参照)に続き、イノベーション拠点としての関西地域の可能性について、パネルディスカッションを行った。
万博を契機に、大阪・関西は先端技術実証都市へ変われるか
国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)、SUNWAYグループによる発表を踏まえたパネルディスカッションでは、関西地域におけるイノベーション創出のためのプラットフォーム事例として、阪急阪神不動産の高岸実良開発事業本部都市マネジメント事業部長が、同社によるスタートアップ企業向けオフィス「GVH#5」や、英国スタートアップ支援企業Rainmaking社と協力して京阪神地域企業と海外企業をつなぐ「Startupbootcamp」事業を紹介した。また、同社が参画する大阪市内中心部の再開発プロジェクト「うめきた2期」を万博会場とともに先端技術の実証事業(PoC)の場にしたいと述べた。大阪大学イノベーション戦略部門の北岡康夫教授は、同大学が新型コロナウイルス感染症治療薬「アクテムラ」の開発や、空港で使われる液体爆発物の検出装置など、研究成果の社会実装に積極的に取り組んできたことを紹介。新たに開始した未来社会共創コンソーシアムの枠組みの中で、SDGs(持続可能な開発目標)など世界的課題をより多く取り込むとともに、UNOPSなどの外部機関とも連携していきたいと述べた。万博協会の堺井啓公広報戦略局長は、万博協会による「TEAM EXPO 2025」プログラムを紹介。目標とする未来社会のために個人や企業などが取り組む活動を「共創チャレンジ」として登録してもらい、賛同者がその実現を助ける構想を披露した。有力な取り組みは、世界的なイベントである大阪・関西万博を通して世界に発信することで、海外に広がっていくことを狙っているという。今後、海外からのチャレンジが登録されれば、日本企業が世界的課題を把握する一助にもなりそうだ。
大学・研究機関の集積、自然・環境分野への取り組み実績は関西の強み
デスカッションの中では、GAFAと呼ばれるIT企業群と距離が近い米国のシリコンバレーや、防衛産業から派生した企業が多いがイスラエルといった海外企業を引き付ける特徴が関西にあるかとの議論も交わされた。複数のパネリストが有力大学や大手企業の研究機関の集積を関西地域の強みとしたが、大阪大学の北岡教授は「国際的に新たにリーダーとなれる分野か、既に経験が蓄積されている分野」に特に注目すべきと言及。UNOPSのスベンソン氏は、日本は気候変動対応のフロントランナーであり、台風や地震をはじめとする自然災害への危機対応や、再生可能エネルギー関連のソリューションは、島しょ国をはじめとする世界各地で技術移転が可能との見方を示した。関西にこうした分野での知見を有する大学や専門家が集積していたことが、神戸進出へのきっかけの1つと話した。また、SDGsで掲げる17の目標には、海や陸の豊かさの保全も含まれるが、生物多様性データ化アプリ「BIOME」の開発運営に取り組むバイオームの藤木庄五郎代表取締役は、日本では23万人のユーザーがゲーム形式で生物のデータを収集し、100万以上の個体を発見したと紹介。消費者が生物多様性保全に関心を持っていることが示せたことで、企業も取り組みに参画するようになったという。同氏は、世界で40億台あると言われる携帯電話を使ったビジネスモデルが構築できれば、生物多様性保全に大きく寄与するとの期待を語った。万博協会の堺井局長は「自然豊かな関西でのソリューションが世界のソリューションになる。日本人は自然との共生を当たり前と捉えているが、自然との共生からの生み出されたイノベーションは隠れた資産」だと言及した。
最後に、近畿経済産業局の米村猛局長が、大阪・関西万博が「いのち万博」「実験万博」「SDGs万博」の側面を持っていること、関西地域でイノベーション支援の仕組みが急速に整備されていることを紹介し、シンポジウムをは締めくくった。
なお、本シンポジウムの様子は、ジェトロウェブサイトで2021年4月30日まで公開されている。