オフィスの無線LAN、選ぶならこの点を忘れずに
時間や場所にとらわれない、柔軟なワークスタイルを実現するための働き方改革が注目されている。例えば、従業員が自分のデスクを持たないフリーアドレスのオフィス。空いている席を自由に活用できる、その日の仕事に合わせてメンバーが集まって仕事ができるなど、柔軟な働き方が可能となる。先進的な企業では、オフィス内の机を、従業員数の8割程度に抑えて賃料を抑えるといった取り組みも行われている。またノートPCやタブレットを会議室などに持ち歩くオフィス内モバイルも浸透してきた。参加者がそれぞれノートPCやタブレットを持ち寄れば、使用する資料をデジタルデータで配布できるので、ペーパーレスな会議も実現できる。
それらを可能にするには無線LAN環境が必須になる。無線LANの通信速度は、今や有線LANと比較しても不満を感じないレベルになっている。いちいちケーブルを接続する必要がないので、座席のレイアウトなども選ばない。電波の届く範囲なら、どこでも仕事ができるわけだ。
だが、無線LANにもさまざまな規格がある。どのタイプの無線LANを選ぶかで、スピードや安定性、使い勝手に差が生じる。
無線LANアクセスポイント選びのポイント
主流はIEEE802.11ac 最新技術で速度と安定性が向上
現在主流の無線LANの規格は、IEEE802.11ac(以下、11ac)だ。このほかにIEEE802.11a(以下、11a)やIEEE802.11b(以下、11b)、IEEE802.11g(以下、11g)、IEEE802.11n(以下、11n)といった規格があるが、今選ぶなら「11ac対応」のものになるだろう。11aや11bは無線LANの普及が始まった時代のものであり、現在はほとんど使われていない。11gは最高速度が54Mbps、11nは600Mbpsと、11acと比べれば低速となる。周波数帯域は、11aが5GHz帯、11bが2.4GHz帯、11gと11nは両方を用いる。
主流の11acは5GHz帯を用い、最高速度も6.9Gbpsと、従来の規格に比べると格段に速い。詳細は後に解説するが、ビームフォーミングやMU-MIMOなどの便利な機能も使える。そして11ac対応のアクセスポイントは、11gや11nなどの従来の規格と互換性が保たれているので、対応する規格が古いデバイスでも、周波数が合えば接続は可能だ。
従来の規格に比べて、11acはスピードや安定性において利点があり、オフィスで使うアクセスポイントとしては、これ以外の選択肢はないといっていい。
ただし11acを選ぶ際には、Wave2に対応しているかどうかが重要になってくる。Wave2とは11acの第2世代にあたるもので、第1世代のWave1に比べて、ビームフォーミングやMU-MIMOへの対応、速度アップなどの改善が加えられている。
無線LANアクセスポイント選びのキモ
それでは、どんな点に注意して無線LANアクセスポイントを選ぶべきか。以下にポイントを示す。
ポイント1 2.4GHz帯と5GHz帯、どちらを選ぶべきか?
前述の通り、無線LANの規格には、 2.4GHz帯と5GHz帯の2タイプがある。実はこの違いは、無線LANの安定性に大きく影響する。2.4GHz帯は、無線LAN以外に、Bluetooth、ワイヤレスマウスなどにも使われる帯域であり、電子レンジやコードレス電話などの家電でも用いられている。したがって、電波干渉が起こりやすい。
特に電波が強力なのは電子レンジである。オフィスの給湯室などに電子レンジが設置されていて、誰かが料理を温めたりしようものなら、無線LANに悪影響を及ぼし、ネットワークに接続できない、速度が遅くなるといったトラブルが起こりかねない。
その点、5GHz帯を用いる11acであれば、それらの電波干渉を回避できる。オフィスでの安定性を重視するなら、5GHz帯を用いる11acが優れている。
ポイント2 以前の規格11nや11gとの混在は?
11acの利点を享受するには、親機であるアクセスポイント、子機であるデバイスともに、11acに対応している必要がある。
アクセスポイントは、周波数帯域が一致していれば、古い規格との互換性が保たれているので、古いデバイスとの接続は可能だ。ただし、速度や機能は、古い規格に合わせることになるため、せっかくの11acの速度が発揮されなくなってしまう。またアクセスポイント、デバイスがともに11acに対応していたとしても、11nや11gで接続してしまった場合も同様の問題が起こりうる。
11ac対応デバイスが確実に11acで接続されるように、11nや11gとの混在は避けるのが望ましい。あるいは、11ac対応機器が誤って古い規格で接続しないよう、11nや11gとの接続しないようデバイス側で設定しておくのもひとつの手だ。
ポイント3 4×4や3×3、2×2とは何か? 違いはどこに現れる?
アクセスポイントの仕様には、 4×4や3×3、2×2といった記載がある。これはアンテナの本数を意味するものだ。「4×4」とは、送信用アンテナと受信用のアンテナがそれぞれ4本ずつ搭載されていることを示している。
無線LANの場合は、アンテナの数がスピードに比例する。11acではアンテナ1本の最高速度が433.3Mbpなので、3本あれば1300Mbps、4本あれば1733Mbpsとなる。速度の表記はいずれも理論上の数字だが、実効速度にも明確な差が現れる。
また、アンテナの本数が多ければ、それだけ多くのデバイスと同時に接続できる。したがって、多くのデバイスが接続されるオフィスユースの場合は、アンテナの本数が多いほうが使い勝手が良くなる。
ポイント4 ビームフォーミングやMU-MIMOの対応は必要?
11ac Wave2では、ビームフォーミングとMU-MIMOという機能が利用できる。ビームフォーミングとは、特定のデバイスに対して電波を強く送る機能だ。その方向に電波を集中して送ることで、アクセスポイントとデバイスの距離が遠い場合など、電波が届きにくい状況下でも安定して通信できる環境を作る。
広いオフィスの場合、アクセスポイントに近い席と遠い席が存在するが、ビームフォーミング機能があれば、遠い席では電波が届きにくい、といった問題が起きにくくなるはずだ。
MU-MIMO(エムユーマイモ/マルチユーザーマイモ)は、多数のデバイスとの同時接続を改善するものだ。MIMOとは複数のアンテナを束ねてデータを送受信する機能で、以前からSU-MIMO(エスユーマイモ/シングルユーザーマイモ)という機能が使用されていた。
SU-MIMOは、複数のデバイスとデータを送受信する場合、デバイスごとに接続を切り替える。つまり、同時に接続できるのは、1つのデバイスに限られ、短時間で接続先を切り替えることで、複数のデバイスとの接続を実現している。そのため、複数のデバイスが同時に接続したときは、同時に通信しているように見えるが、実際には待ち時間が発生していた。
MU-MIMOは「マルチユーザー」という言葉にも現れているとおり、アンテナごとに異なるデバイスとの接続を実現する。例えば4×4のMU-MIMO対応アクセスポイントにMU-MIMO対応のデバイスが3台接続している場合、待ち時間なしに通信できるので、SU-MIMOの3倍の処理能力を発揮する。
つまり、オフィスのように多くの従業員が無線LANを使用する環境では、MU-MIMO機能の有無が使い勝手を大きく左右するといえる。
ポイント5 レーダーとの干渉を抑え、帯域を有効に活用するためのDFSとTPCとは?
5GHz帯のなかでも活用されていない帯域がある。例えば、気象観測や衛星のレーダーの帯域と重なる帯域を利用するには制約があった。アクセスポイントがこの帯域を利用する場合、レーダーを検知すると別の帯域に切り替えなくてはいけない。その際に1分間、切り替えた先の帯域でレーダーが検知されないかを確認するDFS(Dynamic Frequency Selection)機能、衛星の電波との干渉を緩和するTPC(Transmission Power Control)が必要とされていた。
DFSやTPCを用いれば、その帯域が使えるようになるが、ユーザーから見ると、1分間、アクセスポイントとの接続が途切れることになり、非常に使い勝手が悪くなる。そのため、あまり活用されていなかったのである。
しかし、実は使われていないDFS帯は、使える帯域よりも広い。今後無線LANをさらに活用したいなら、ぜひとも使いたい帯域なのである。そこで、1分間の確認時間をなくすための技術の搭載も進められている。これも多くの従業員が同時に無線LANを活用する環境にはお勧めの機能である。
ポイント6 アンテナは外付けと内蔵、どちらが優れている?
アクセスポイントには、アンテナが外側に出ている外付けタイプと、筐体の中に収納されている内蔵タイプがある。どちらであっても、アンテナの精度に違いはないように設計されているだろうが、外付けタイプにはアンテナの角度を変更できるという利点がある。アンテナの角度を変えられると、アクセスポイントの設置場所に柔軟に対応できるからだ。
アクセスポイントは、部屋の中央に設置できるケースもあれば、部屋の隅に設置するケースもあるだろう。中央であれば、全方向にまんべんなく電波を送受信するが、隅に設置する場合は方向が限定されてしまう。外付けタイプであれば、アンテナの角度を変えることで、人の多い方向に通信しやすいように設置できる。
ポイント7 安定した通信に欠かせない平等通信機能とは?
アクセスポイントには、平等通信機能を搭載したタイプも登場してきた。多数のデバイスと接続する場合、無線LANは先に通信したデバイスを優先させる。例えば、先にeラーニングなどで動画コンテンツを再生したデバイスがある場合、そのデバイスが帯域を優先的に使ってしまう。そのため、別のデバイスで動画コンテンツを再生しようとしても、映像が途切れがちになるなどの不利な状態に陥る。
そのような問題を解消するのが、接続中のデバイスの通信速度を均一化する平等通信機能だ。接続されたデバイスに対して、通信時間を平等に割り当てるので、有利、不利が生じないことになる。
ポイント8 IT機器は熱に弱い――熱対策は?
無線LANのアクセスポイントは、必ずしも良い環境に設置されるとは限らない。人が仕事をする場であるオフィス空間であれば、エアコンを効かせて、温度管理も適切に行われるだろうが、熱溜まりを起こしやすい天井や廊下の隅などに置かれることもある。
周知のように、IT機器は熱に弱い。高熱になると処理能力が落ちるばかりか、熱暴走を起こしてフリーズすることも懸念される。それは無線LANのアクセスポイントでも例外ではない。アクセスポイントを選ぶ際には、何度までの高温に耐えられるかを確認しておこう。
熱対策に優れたアクセスポイントは、夏場にも耐えられるほか、倉庫など熱がこもりやすい場所にも設置できる。
今回は現在主流となっている11acについて解説したが、次世代の規格として802.11axの策定も進んでいる。これは9.6Gbpsと、11acの約1.5倍の速度をめざしている。さらに機能を強化したMU-MIMOも搭載され、より多人数との同時接続での通信が改善されると見込まれている。
無線LANを活用することで、電波が届く場所であれば、どこにいてもPCやタブレットを活用した仕事ができるようになる。それには、11acのように高速、かつ広いエリアに、安定して電波の送受信が可能なアクセスポイントが必須である。そして多くの従業員が同時にアクセスしても、通信が途切れるなどの障害が起きにくいように、ビームフォーミングやMU-MIMO、平等通信機能などが搭載されているモデルが適している。オフィス内の従業員の数や同時に通信するユーザー数、オフィスの環境などを踏まえて、アクセスポイントをお勧めしたい。
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