感染不安…記者も利用 大分市抗原検査センター
取材で同席した同業他社の記者が、新型コロナウイルス陽性になった。もしかして自分も――。不安な日々を過ごし、大分市がJR大分駅前に開設した市抗原検査センターを19日に訪れた。私は幸い陰性だったが、貴重な体験だった。「不安ならば検査を」と市の担当者は呼びかける。
15日の土曜日。1人で勤務していた職場に、他社の記者が抗原検査で陽性だったとの連絡が入った。私はこの記者と13日に取材先2カ所で同席し、エレベーターでも一緒だった。
連絡を受けてからしばらくは、あまり記憶がない。上司の指示で私が触れた電話機やファクス、机、ドアノブを消毒して回った。職場に戻ってくるかもしれない同僚に事情を説明し、私が外へ出るまで戻ってこないよう頼んだ。
感染を恐れるのには理由がある。福岡県小郡市で一人暮らしをする母親(74)は闘病中。主治医から「ワクチンは打てない。コロナ感染には気をつけてください」と言われていた。私は月に何度か、大分から様子を見に通っている。だから消毒液を持ち歩き、外食を避け、外出の際は二重マスクを着けていた。
翌16日は自宅待機を命じられた。何も手につかなかった。他社の記者はPCR検査でも陽性。私は「濃厚接触者」に該当していなかったが、変異ウイルスの感染力を考えると安心はできない。待機が解けたので、抗原検査センターを利用させてもらうことにした。
センターは午前9時に開く。感染していた場合を考えて、自家用車で向かった。小雨の中、午前9時半前に着くと、すでに4、5人の列ができていた。
受付で濃厚接触者でないことを確認され、問診・同意書に記入。内容は「風邪の症状はないか」「市内の商店や飲食店の利用者、従業員であることを証明するものはあるか」「陽性の場合、市保健所の指示に従えるか」の3点について選択肢から選ぶ形式で、すぐに終わった。当日、市内のコンビニでおにぎりを買った際のレシートを担当者に提示した。
検査ブースへ移る。検査方法を説明する動画を見ながら、自分で鼻へ入れためん棒を5度回して5秒間そのままにし、液体が入った容器へ。検体採取はあっという間に終わった。センターに入ってから出るまで数分間だった。
問診書の注意事項には、「感染を完全に否定できるものではないので、引き続き十分な対策をお願いします」。検査立ち会いの担当者は、「感染初期だと陰性になることもあります。心配でしたら、2、3日後にまたいらしてください」と説明してくれた。
センター利用者の中には、私のように感染する状況に心当たりのある人もいるだろう。係員はにこやかに接してくれたが、感染への不安はあるはずだ。頭が下がる思いだった。
陽性ならば30分ほどで携帯電話に連絡がくる。人と接触しないように車で待ったが、連絡はなかった。
大分市によると、19日現在、1万5205人がセンターで検査を受け、うち59人が陽性。そのすべてがPCR検査でも陽性だったという。市の担当者は「不安に思う人はぜひ利用を」と話している。(倉富竜太)
◇
大分市の抗原検査センターは県外との往来があった人向けに4月29日開設。今月7日からは、市内の店舗の従業員や利用者に対象を広げ、実質的に誰もが利用できるようになった。抗原検査で陽性の場合はPCR検査で結果を確定させる。現在は15分で結果が出るPCR検査機器を施設内に設置した。宇佐市も16日にセンターを開設。どちらも6月30日まで稼働する予定だ。
大分大副学長の西園晃教授(ウイルス学)はセンターを「非常に有効な取り組み」と評価する。抗原検査はPCR検査よりも感度が低いが、それだけに抗原検査で陽性だった人には多くのウイルス量があると考えられるという。
「無症状や弱い症状しかないのにウイルス量が多い人は、(1人で多くの人に感染させる)スーパースプレッダーになり得る。早めの発見は、市中感染のリスクを低減させることにつながる」と西園教授は語る。
抗原検査は陰性でも、検査時点のウイルス量が検出可能な水準より少ないだけで感染していることがありうる。西園教授は「陰性で安心した感染者の油断に対する懸念はある」と利用者に注意を促し、「不安がある人は間隔を数日あけてまた検査を受ける、といった方法も考えられる」と話している。(寿柳聡)