多すぎてよく分からない、スマホの「急速充電」規格を整理する:スマホ×バッテリー快適ライフ(1/2 ページ)
スマートフォンの充電時間を短縮できる「急速充電」。端末が大型化し、バッテリーも大容量化するにつれて、ますます急速充電への対応は一般化している。しかし、一言で急速充電とくくっても、さまざまな規格が乱立しており、利用者にとっては全容をつかみづらい。そこで、急速充電の全体像を理解できるよう、最低限の情報を整理した。
「急速充電ではない」出力とはどのくらいなのか?
急速充電という言葉の定義はあいまいだ。充電速度の目安となる単位には、「V(ボルト)」と「A(アンペア)」、これらを掛け合わせた「ワット(W)」が使われる。しかし、何W以上を急速充電と呼ぶのかは厳密に定まっていない。そこで、まず基準となるUSBの出力について考えてみよう。なお、実際の充電効率は、使用するケーブルや充電機、スマートフォンの充電制御回路などに左右されるため、ここで紹介する数値はあくまでも理論値だ。
そもそも、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)という規格は、コンピュータと周辺機器を接続するために誕生したため、当初は大容量充電を想定してはいなかった。2000年に策定されたUSB 2.0では、理論的には5V×0.5A=2.5Wの最大出力で充電可能。標準で0.1A、ホストとデバイスが合意して最大0.5Aの電力供給が行われる仕様だった。しかし、データ転送がしばらくない場合には、利用可能な電流は2.5mAに制限された。
その後、USBから充電に使用することを意識した規格が登場する。2007年に策定された「USB BC(USB Battery Charging Specification)」だ。スマートフォンの黎明(れいめい)期には、2010年に定義された「USB BC 1.2」が普及。この規格が対応した最大5V/1.5A(=7.5W)という値が、急速ではない充電速度のレガシーな基準といえる。
一方、2019年夏モデルのスマートフォンを見ると、そのほとんどがUSB Type-Cに変わった。こうした状況を踏まえれば、今どきの基準はUSB Type-Cの仕様で考える必要があるだろう。USB Type-Cでは、「Type-C Current」という充電規格があり、最大5V/3A(=15W)と最大5V/1.5A(=7.5W)の2パターンが存在する。
速くない充電の基準は「5V/1.5A」と考えておくとよい厳密にいうと、他にもUSBの規格はほそぼそと存在するので話はより複雑になる。しかし、ここではUSB BC 1.2の5V/1.5A(=7.5W)とUSB Type-Cの5V/3A(=15W)という値を1つの基準として覚えておいてほしい。
最大W数を13倍まで上げた「USB PD」
前置きが長くなったが、いよいよ高速充電規格について紹介していく。まずUSBの公式規格として存在するのが、2012年に発表された「USB PD(USB Power Delivery)」だ。USB Type-C経由でノートPCなどを充電することも踏まえて策定されており、同規格の出力は最大20V/5A(=100W)に拡張されている。従来の7.5Wと比べると約13.3倍の値だ。
ただし、もちろんUSB PD対応デバイスの全てが100Wに対応しているわけではない。スマートフォンでいえば、今のところの上限は18W程度だ。
国内・国外メーカー問わず、最近の主要なAndroidスマートフォンは、このUSB PDに対応していることが多い。Appleも「iPhone 8」から対応した。USB PD対応の充電器とケーブルをそろえれば、端末が対応する最大の充電速度を実現できるだろう。
belkinの「BOOST↑CHARGE USB-C to ライトニングケーブル」(1780円※税別、以下同)はUSB PD対応のLightningケーブルbelkinの「BOOST↑CHARGE USB充電器(27W USB-C)」(3480円)(上)と「BOOST↑CHARGE USB充電器(27W USB-C + 12W USB-A)」(3980円)(下)はUSB PD対応の充電器なお、アクセサリー選びで覚えておきたいことは2つある。1つ目は、サードパーティー製を購入する場合には、USB-IFによる認証プログラム「Certified USB Charger Program」で認可済みの製品を選ぶと安心だということ。
2つ目は、充電規格とは別にUSB Type-Cとして3A出力と5A出力の2種類があることだ。先述の理由からスマートフォンへの充電ならさほど気にしなくてよいだろうが、3A出力のケーブルでは最大60Wにしかならない。PD対応のノートPCの充電にも使う場合には、5AのPDケーブルを選んでおきたい。
Qualcommが提供する「Quick Charge」
USBの規格とは別に、Qualcommが開発した充電規格として「Quick Charge(クイックチャージ)」がある。現状、1.0〜4+まで複数のバージョンが存在し、Quick Charge1.0では最大5V/2A(=10W)、Quick Charge 2.0以降では最大18Wの出力に対応する。
先述したUSBの充電規格では、USB PDの20Vを除き、基本的な電圧は5V固定だった。一方、Quick Chargeでは電圧を調整するのが特徴だ。Quick Charge 2.0では5V、9V、12Vなどを数段階で、Quick Charge 3.0では3.6〜12Vなどの範囲を自動で最適に調整する。なお、電圧の調整範囲は充電器メーカーによって表記が微妙に異なるようだ(上記の値はbelkinの公式サイトを参照している)。
サンワサプライのQuick Charge 3.0対応充電器「ACA-QC46CW」はUSB Type-C ケーブル一体型LGやモトローラなどを筆頭に、Quick Chargeに対応するAndroidスマートフォンも増えている。なお、NTTドコモは「急速充電2」や「急速充電3」のようにQuick Chargeの規格を言い換えて表示しているので注意したい。
ちなみに、Quick Charge 4/4+では、USB PDとの互換性がある。現時点では十分に普及した規格とはいえないが、将来的にはPDとQCは両者を意識せずに使えるようになるかもしれない。
メーカーの独自規格も