トヨタがまさかの特許侵害で日本企業から訴えられた! 超大手企業2社の間に何があったのか?
特許侵害しているとする中国企業の鋼板を使うトヨタにも責任追求
超大手が超大手企業に裁判を起こすという近年稀に見る大ごとに発展した今回の問題。その原因は”鉄”にまつわるものだった。※写真はイメージ
日本製鉄は2021年10月14日、中国の鉄鋼メーカーの宝山鋼鉄とトヨタ自動車に対して、無方向性電磁鋼板に関する特許の侵害があったとして、それぞれ損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起したと発表した。これに併せて、日本製鉄はトヨタに対して、トヨタの電動車について製造販売の差止仮処分の申立てを行った。【写真】一発屋のトヨタ車7台! このニュースが流れて、多くの人が「なぜ、日本を代表する超大手企業どうしがもめることになったのか?」という素朴な疑問を持ったことだろう。 日本製鉄は、2012年に新日本製鐵が住友金属工業と合併し、2018年に社名を変更した製鉄業界の最大手である。一方のトヨタは、売上高では日本トップ企業であり、車体や各種部品でさまざまな金属を材料として仕入れ、加工して量産に組み込んでいる。そうした中で、今回は無方向性電磁鋼板について、日本製鉄とトヨタの言い分が大きく食い違っている。 まず、無方向性電磁鋼板とは何か? 日本製鉄のプレスリリースには、次のように記載されている。「電磁鋼板は、特殊な製造プロセスによって鉄の磁石につく特性(磁気特性)を著しく高めた『高機能材料』で、発電所の発電機、電気機器や電動車・携帯電話の振動モータ等の『鉄心(コイルの中になる鉄材、コア)』として、身のまわりで広く使用されています。無方向性電磁鋼板は、特定の方向に偏った磁気特性を示さないように、鋼板の面内でできるだけランダムに結晶方位をコントロールした鋼材で、モーターなど回転機の鉄心に広く使用されています」。
トヨタは主張を全面否定でその影響も不明だ
トヨタ側は「特許侵害などがないように素材を選定している」とのことで今回の件を良くは思っていない。「無方向性電磁鋼板」にまつわる裁判の行方はどうなるのか注目したいところだ。 ※写真はイメージ
こうした日本製鉄による提訴に対して、トヨタは「弊社が訴えられたことについては、大変遺憾に感じている」とした上で、「弊社では、さまざまな材料メーカーとの取引にあたり、その都度、特許抵触がないことを材料メーカーに確認するプロセスを丁寧に踏んでおります」としている。 今回の無方向性電磁鋼板についても、宝山鋼鉄と取引締結前に、特許侵害がないことを確認しており、また日本製鉄からの指摘を受けて、改めて宝山鋼鉄に特許侵害について確認したが、特許侵害の問題はないとの見解をもらっている、と説明している。 こうした日本製鉄とトヨタ双方の主張が食い違っている状況で、トヨタが具体的にどのような電動部品で、無方向性電磁鋼板を使っているのかについては情報が公開されていない。 日本製鉄の指摘した電動車という括りに、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、また、日本では未発売のC-HR EVや、レクサスUX300eなどのBEV(バッテリーEV)、中国市場のトヨタ電動車ラインアップのどのモデルのどのモーターに使われているのかは不明だ。 また、宝山鋼板が製造する無方向性電磁鋼板が、日本国内で販売されているトヨタやレクサスの電動車に使われているかも現時点では分からない。そのため、仮に、日本製鉄が電動車の製造販売の仮差止めが認められた場合、その影響が日本市場に及ぶかどうかも不明である。 いずれにしても、無方向性電磁鋼板のほかにも、さまざまな金属製品で取引があるトヨタと日本製鉄が裁判で争うという状況は、自動車産業界全体にとって、そしてユーザーにとって喜ばしいことではない。 今後の2社の動向を注視していきたい。
桃田健史