急速に円安が進行、ドル円は2017年1月以来の118円台乗せ
14日のニューヨーク市場ではドル円は118円台に上昇し、2017年1月以来の水準を付けてきた。2017年には118円60銭台までドル円が上昇していたが、もしここを抜けると120円が視野に入る。
2017年に118円60銭台までドル円が上昇した際には、1月20日にトランプ氏が大統領に就任したことも影響していた。一時的にリスク回避の動きが起きたが、すぐに切り返してトランプ相場やトランプラリーと呼ばれる相場展開となった。
トランプ氏が減税や規制緩和などを行うとの期待が出たことで、原油価格の下げ止まりなども加わり物価の上昇期待も強まった。12月にはFOMCでの再利上げの決定もあり、米長期金利が上昇し、これがドル高を招き、米国株式市場は上昇した。
しかし、ここにきての円安は当時とは状況が異なっている。ロシアによるウクライナ侵攻というリスクに対して、リスク回避の円高ともなっていない。ではどうして円安が進行しているのか。
ロシアによるウクライナ侵攻に対してはリスク回避のドル高によるものとの見方もできようが、いずれにしても円が売られやすい状況になりつつあることもたしかである。
そのひとつの要因として経常赤字がある。財務省が3月8日に発表した1月の国際収支(速報)で、貿易や投資による日本と外国のお金の出入りを示す「経常収支」が1兆1887億円の赤字だった。赤字幅は2014年1月に次いで、過去2番目の大きさである。原油価格の高騰などにより、貿易収支の赤字が膨らんだことが影響した。
原油高などの資源価格の上昇は一時的との見方もあるが、ロシアによるウクライナ侵攻は資源高のきっかけではなく、それを加速させたに過ぎない。仮に停戦となっても原油価格の下げには限界があるとみられる。
原油などの資源高は物価を上昇させる。この物価高を受けてFRBは今週のFOMCで利上げを決定するとみられる。イングランド銀行もすでに利上げを決定している。ECBも量的緩和を早めに切り上げ、利上げのタイミングを探っている。
これに対して現在の日銀は消費者物価指数が目標の2%に届いていないとの理由から正常化に向けた動きは封印しているかにみえる。
4月以降の消費者物価指数は携帯電話料金の引き下げによる影響がある程度なくなることや、食料品の値上げ、原油価格の上昇とそれによる電気料金の引き上げなども予想され、前年比で2%を超えてくる可能性が出ている。
それでも黒田日銀総裁が正常化に向きを変える必要性を意識することは現状は考えづらい。このため日米の金融政策の方向性の違い、金利差の拡大などが意識されての円安ドル高も今回のドル円が5年2か月ぶりの水準を付けた背景となっている。
円安はさらなる物価上昇の要因ともなることで、以前に比べると景気にとって必ずしもプラスとは言い切れない。輸出企業も海外への工場移転なども進み、国内経済が円安にとって潤うという状況でもなくなりつつあることにも注意が必要となる。
2015年6月にドル円が125円に近づいた時に日銀の黒田総裁が「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れていくことはありそうにない」と、さらなる円安をけん制する発言をした、いわゆる黒田ラインと呼ばれたものであるが、名目為替レートでみれば125円とは距離がある。しかし、1月の円の実質実効相場(日銀公表値)は2015年6月のレベル(67.63)を下回り67.55となっていたことで、すでにそのラインは突破しているともいえる。