総務省が非回線契約者への端末販売の実情を覆面調査――卸価格問題は完全分離が検討されたときに議論すべきではなかったか:石川温のスマホ業界新聞
2021年4月26日、総務省にて「競争ルールの検証に関するWG(第17回)」が開催された。
その中で議題に上がったのが、非回線契約者に対する端末の販売拒否問題だ。総務省が覆面調査を行い、NTTドコモで22.2%、KDDIが29.9%、ソフトバンクで9.3%の店舗において、非回線契約者への端末販売拒否があったという。
この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年5月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
総務省では「販売代理店の現場において徹底されておらず、また、総務省の覆面調査の結果と比較して事業者の調査で報告された店舗数の割合が極端に少ないことから、事業者は、そのような現場の実態を十分に把握・指導できていないと考えられる。これは、販売代理店への指導等 措置義務を十分に果たしていないと認めざるを得ない」としていた。
ただ、同時に公開された販売代理店運営法人へのインタビューによれば「原則的に取り扱う端末はキャリアから卸したもののみを許容している一方、卸価格がキャリアのオンライン直販価格と一致。仮に代理店がキャリアの直販価格で端末を売った場合、端末販売自体による粗利は0円になり得る。端末販売は、新規契約や機種変更と連動して扱われるため、回線契約に紐付いた手数料が支給されるが、回線に紐付かない端末のみの販売(白ロム販売)などでは利益がでない。また、クレジットカード払いなど、販売条件によっては赤字が発生するとの声がある」とのことだった。
そもそも、総務省はなぜこのタイミングでこんな調査を行ったのか。いまさら、この状況を問題視するのはあまりに遅すぎやしないか。
本来であれば、端末販売と通信契約の完全分離を検討する段階で議論すべき内容だろう。完全分離を進めることで、販売代理店の現場が混乱し、疲弊する可能性がないのか、検証してから、分離を進めるべきではなかった。
こうした問題を整理し、販売代理店が儲かる環境を整備するのが先だったはずだ。
通信料金料金が下がらない→完全分離すべき→端末割引は2万円まで→販売代理店は非回線契約者に端末を売っても1円も儲からない→どうしよう、困った。というお粗末な状態に陥っている。
総務省や有識者会議が机上の空論で完全分離を進めた弊害が、販売代理店の現場に出てしまっている。
すでに各社からオンライン専用プランや、端末を分離したサブブランドが登場し、通信料金の水準は世界に比べて安価になっているのだから、2019年の電気通信事業法改正は根本から見直した方がいいのではないか。
結局、振り返れば、通信料金の値下げは完全分離の結果では無く、武田総務大臣が激高したことがきっかけでしかなかった。
総務省が作ったルールはできるだけ撤廃し、料金プランは高めだが、端末を高額割引で買えるプランもあれば、完全分離で通信料金が安いプランなど、多様なプランから選べるようにした方がいいのではないか。キャリアや販売代理店が自由な発想で料金プランや販売方法を生み出せる環境こそが真の競争につながるのではないだろうか。
2万円制限なんて無用なルールを作るからこそ、「非回線契約者にも売れ」とか、挙げ句の果てには「覆面調査」なんていう時代錯誤な取り組みも必要となってくる。
総務省の官僚は覆面調査がやりたくて(もしくは業者に発注したくて)国家公務員になったのか。
総務省が、通信業界に向けて本当にやるべきことを改めて見直してもらいたい。