EMCの基礎知識
ラジオを聞いている時にPCや電子レンジを動作させたら、音にノイズが入ったり、電化製品が静電気で誤動作を起こした経験はないでしょうか。これは、電気・電子機器が発する電磁波(電磁ノイズ)や静電気が、他の製品の動作に影響を与えたためです。本連載では、こうした不具合を防ぐための技術EMCを、7回にわたり解説します。第1回の今回は、EMCの概論と、実際にどのような障害が起こるのか、事例を紹介します。
もくじ
第1回:EMCとは?
1. EMCとは?
EMCは日本ではまだなじみの薄い用語ですが、電子機器を設計する上での重要性は、ますます高まっています。まずはEMCの概要、歴史、試験方法を解説します。
1:EMCとは?
EMC(Electromagnetic Compatibility、電磁両立性)とは、「装置またはシステムの存在する環境において、許容できないような電磁妨害をいかなるものに対しても与えず、かつ、その電磁環境において満足に機能するための装置またはシステムの能力」と定義されています(JIS C 60050-161、EMCに関するIEV用語)。つまり、他の製品に影響を及ぼす電磁ノイズを出さないこと、外部から電磁ノイズを受けても正常に動作することの両方の性能が、EMCです(図1)。
図1:EMC(電磁両立性)とは?電子機器が発生する電磁ノイズは、電磁妨害(EMI:Electromagnetic Interference)、またはエミッション(Emission)といいます。対して、電磁ノイズに対する耐性(誤動作しないこと)は、電磁感受性(EMS:Electromagnetic Susceptibility)、またはイミュニティ(Immunity)といいます。EMCに関する用語には複数の呼称があり、混乱を招きやすいため、本連載では電子機器が発生する電磁ノイズをエミッション、電磁ノイズに対する耐性をイミュニティとします。
2:EMCの歴史
EMCの歴史は古く、1930年代にさかのぼります。モータなどを組み込んだ電子機器の電磁ノイズによって、ラジオなど無線機器の受信が妨害される現象(エミッション)が報告されました。これを受け、1934年、CISPR(国際無線障害特別委員会:シスプル、Comite International Special des Perturbations Radioelectriques)が設立されました。CISPRの目的は、無線障害の原因となる各種機器からの電磁ノイズに関し、その許容値と測定法を国際的に統一することで、国際貿易を促進することです。その後、電子機器の複雑化・低電圧動作化が進むにつれ、静電気や放送波などの電磁ノイズにより、電子機器が誤動作するイミュニティも問題となり始めます。そして、エミッションとイミュニティの両方を含んだ、EMCという考え方が一般的になりました。
3:EMCの試験方法と目的
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2. EMCの重要性
具体的な電磁障害の事例と、その原因を見ていきましょう。EMCの重要性に対する理解が深まることと思います。また、規制に関しても解説します。
1:事例集から見た電磁障害
電磁波の問題は、私たちの身近な場所でも数多く発生しています。電車の優先席付近では、携帯電話の電源を切ることが求められます。飛行機の離着陸時には、電子機器の電源を切るか、機内モードに設定する必要があります。これらは、携帯電話などの電子機器が意図的に放射する電磁波が、心臓ペースメーカーや、飛行機の計器に悪影響を及ぼさないための対策です。また、アナログテレビの画像乱れや、AMラジオの雑音は、EMC対策が不十分な機器が近くにあるために起こる、代表的な電磁障害です。
総務省による電磁障害事例集では、エミッションの問題として、FAXや業務用脱毛器などの電子機器が、消防無線に影響を与えた事例が報告されています(表1)。また、……
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第2回:エミッションとは?
前回は、EMCの概要と、その重要性を説明しました。EMC(電磁両立性)には、エミッション(電子機器が発する電磁ノイズ)と、イミュニティ(電磁ノイズに対する電子機器の耐性)の2つの性能があります。今回はエミッションに着目し、エミッションの元となるノイズ源と、EMCを考慮した設計を行う上で重要なエミッションの3要素を解説します。
1. エミッションの種類
EMCはエミッションとイミュニティの2つの性能に分けられます。エミッションも、2つに大別されます。放射エミッションと、伝導エミッションです(図1)。
図1:エミッションの種類放射エミッションとは、電磁ノイズが筐体(きょうたい)やケーブルから空間へと放射されることです。比較的高周波の電磁ノイズ(多くの規格では30MHz以上)が該当し、測定の際はアンテナを用いて受信します。一方、……
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2. エミッションのノイズ源
エミッションは、電子機器から発せられる電磁ノイズで、無線機の通信妨害などを引き起こす現象です。しかし、全ての電子機器が電磁ノイズを発するわけではありません。例えば、白熱電球とLED電球は、どちらも発光する製品です。このうち、電磁ノイズを発生させるのはLED電球のみで、白熱電球は電磁ノイズを全く発しません。
白熱電球は、電圧を印加することでフィラメントが赤熱し、発光します。直流、交流どちらの電源も利用可能で、通常は50Hz、または60HzのAC電源が用いられます。このように、最大でも60Hzの低周波数しか使用せず、ノイズ源を持たない白熱電球は、電磁ノイズを放射しません。
一方のLEDは、……
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3. エミッションの3要素
電子機器は、一般的に多くのノイズ源を含むため、エミッション対策を講じる必要があります。放射エミッションの対策を行う上で重要3要素は、ノイズ源、ノイズの伝搬経路、アンテナの3つです(図4)。
図4:エミッションの3要素電磁ノイズは、スイッチング、クロックなどのノイズ源から発生します。そして伝搬経路を通り、アンテナから放射されます。EMCを考慮した設計をする場合、基本的にはノイズ源に近いところで対策を講じることが効果的です。
ノイズをアンテナに伝搬する経路には、ノイズ源となるスイッチングの素子や、クロックの発生源に接続されている基板の線路、ケーブルなどがあります。ただし筐体が金属製で、かつノイズ源と金属製の筐体が接続されている場合は、筐体も伝搬経路となります。また、……
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第3回:イミュニティとは?
EMC(電磁両立性)には、エミッション(電気・電子機器が発する電磁ノイズ)と、イミュニティ(電磁ノイズに対する電気・電子機器の耐性)の2つの性能があります。前回は、エミッションを解説しました。今回はイミュニティを取り上げ、その評価方法と代表的なノイズ源を説明します。
1. イミュニティとは
私たちが生活している環境には、さまざまな電磁ノイズが存在します。このような環境において、電気・電子機器が正常に動作する能力や、電磁ノイズに対する耐性を、イミュニティといいます。イミュニティ対策が不十分な電気・電子機器は、電磁ノイズにより誤作動を起こす可能性があり、重大な事故になりかねません。
電磁ノイズは、種類によってノイズの大きさや波形、侵入方法などが異なるため、イミュニティ試験では代表的な電磁ノイズを模擬して行います。また、実際の試験では、侵入する電磁ノイズの種類により許容される誤動作が決められています。そのため、どのような電磁ノイズが侵入した場合でも、誤動作が許されないわけではありません。
2. イミュニティの評価
電気・電子機器のEMCを評価する場合、どのような結果なら、問題があるのかを決める必要があります。エミッション試験では、製品の種類や利用する環境などに応じて、電磁ノイズの大きさの許容値を決定します。表1に、日本の情報処理装置等電波障害自主規制協議会が定めたマルチメディア機器に対する自主規制(VCCI:Voluntary Control Council for Information Technology Equipment)における許容値の一例を示します。電気・電子機器から発生する電磁ノイズが許容値以下であれば、問題ないと評価することができます。
表1:VCCIクラスA機器技術基準の許容値(10m距離)周波数範囲 | 準尖頭値許容値 |
30MHz~230MHz | 40dB(μV/m) |
230MHz~1,000MHz | 47dB(μV/m) |
これに対し、イミュニティ試験は、電磁ノイズの影響で生じる誤動作の評価を行います。そのため、エミッション試験のように、電磁ノイズの大きさや許容値で評価することはできません。また、誤動作といっても、その内容はあいまいです。前回と同様に、LED電球を例に見てみましょう。
図1:LED電球の誤動作の例LED電球の機能は発光です。想定される動作も、もちろん発光です。では、誤動作はどうでしょうか?……
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3. イミュニティのノイズ源
イミュニティ対策を考慮した設計を行うには、どのような電磁ノイズが存在し、どこから侵入するかを見極める必要があります。代表的な電磁ノイズを、自然現象により発生するものと、人工的に発生するものに分けて説明します。
・自然現象による電磁ノイズ
自然現象により発生する電磁ノイズの代表例には、静電気と雷があります。それぞれ、IEC61000-4-2静電気放電イミュニティ試験、およびIEC61000-4-5サージイミュニティ試験の基本規格において、試験方法などが定義されています。
IEC61000-4-2静電気放電イミュニティ試験で定義された静電気は、人体から放電されるものが対象で、製品同士などの放電は対象となりません。静電気による電磁ノイズは、直接放電と間接放電があります(図2)。
図2:静電気の直接放電と間接放電直接放電は、電気・電子機器に直接触れたときに発生する静電気放電です。この放電は、主に電気・電子機器の金属部(金属筐体、ねじ部やコネクタのシェルなど)に接触した際に発生するものと、スイチの隙間や液晶部などの絶縁部を通して発生するものがあります。一方、……
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第4回:エミッション対策
EMC(電磁両立性)には、エミッション(電気・電子機器が発する電磁ノイズ)と、イミュニティ(電磁ノイズに対する電気・電子機器の耐性)の2つの性能があります。今回は、エミッション対策というテーマで、電磁ノイズの種類と代表的な対策を解説します。
1. ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ
電気・電子機器のノイズ源から発生する電磁ノイズは、その伝わり方により、ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズと、コモンモードノイズの2つに分けられます。
図1:ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ・ディファレンシャルモードノイズ
ディファレンシャルモードでは、ノイズ源から発生したノイズは、導線を通って伝わり、その線と組になる導線を通って戻ります(図1左)。往路がプラス側であれば、復路はマイナス側、また、往路が信号線の場合、復路はグランドになります。これは、電気・電子機器の電源や電気信号と同じ経路です。このとき、ノイズの流れは、行きと戻りの向きが逆になるため、ディファレンシャルモード(ノーマルモード)と呼ばれます。
・コモンモードノイズ
一方、コモンモードでは、……
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2. 電磁ノイズの対策
ノイズ対策には、多くの種類があります。ただし、製品の仕様や対策部分、対策したい周波数などにより方法は異なり、全ての製品に効果的なものはありません。そのため、どのような対策があるかを把握して、製品を設計する際に、適切な方法を選択する必要があります。
本稿では、エミッションの3要素であるノイズ源、伝搬経路、アンテナのうち、伝搬経路とアンテナについて、代表的な対策を説明します。ノイズ源を小さくすることは最も効果的な対策ですが、コストや機能上の制約により、実践は難しいのが現状です。また、基板のアートワーク設計もノイズ対策には有効です。興味のある人は、ぜひ調べてみてください。
・伝搬経路におけるノイズ対策
伝搬経路のノイズ対策は、電磁ノイズが伝搬し、拡散を防ぐことです。30MHz以下の伝導エミッションの帯域では、フィルタが有効です。電源線などに利用する電源フィルタは、コンデンサとコモンモードチョークコイルを組み合わせます。コンデンサは接続の仕方により、Xコンデンサ、およびYコンデンサと呼ばれます(図2)。
図2:電源フィルタの例Xコンデンサは、ディファレンシャルモードノイズ対策に有効です。一方、Yコンデンサ、およびコモンモードチョークコイルは、コモンモードノイズ対策に有効です。コンデンサの容量やチョークコイルのインダクタンスを変えることで、対策できる周波数を変更できます。
30MHz以上の放射エミッションの帯域では、フィルタでの対策は困難です。電源線だけではなく、信号線などへの対策も必要となるためです。信号線への対策を行う場合、信号はそのまま伝えながら、電磁ノイズのみを遮断する必要があります。この場合、信号の周波数と、電磁ノイズの周波数の違いを利用した対策を行います。代表的な対策部品は、フェライトビーズです。フェライトビーズのインピーダンスは周波数特性を持っているため、信号の周波数では低インピーダンス、それ以外の周波数では高インピーダンスを持つものを選びます。
メモリなどのデータバスや、デジタルIC(Integrated Circuit:集積回路)のクロックの対策として、ダンピング抵抗があります。ダンピング抵抗は、共振回路や信号線とICのインピーダンス不整合によるクロックのリンギング(電圧が振動すること)の抑制に用いられます。クロックのような方形波には高調波成分が含まれ、非常に広い周波数成分を持っています。リンギングが生じたクロックは、さらに大きな高調波成分を含んでいるため、電磁ノイズの原因となります。ダンピング抵抗は、メモリやデジタルICの出力ピンのすぐそばに配置することが重要です。
・アンテナ部におけるノイズ対策
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第5回:EMC試験の要求
前回は、EMC(電磁両立性)のうち、エミッション(電気・電子機器が発する電磁ノイズ)対策を説明しました。EMC規格や、試験の要求内容は、国や地域によって異なります。今回は、日本、ヨーロッパ、アメリカで、どのようなEMC試験が要求されているのかを解説します。
1. 日本のEMC試験の要求
日本では、一般的な電気・電子機器と、医療用に用いられる医療機器とでは、要求されるEMC試験が異なります。一般的な電気・電子機器には、電気用品安全法や、電磁妨害波の自主規制を行うVCCI協会(情報処理装置等電波妨害自主規制協議会)が定めた規制などにより、エミッションの試験が求められます。一方、医療用に用いられる医療機器については、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)により、エミッション、イミュニティ(電磁ノイズに対する電気・電子機器の耐性)ともに試験が要求されています。特にイミュニティに関しては、厳しい試験が課せられています。本稿では、一般的な電気・電子機器に要求されるエミッション試験について解説します。
・電気用品安全法
電気用品安全法は、電気用品による危険、および障害の発生防止を目的として制定された法律です。電気用品安全法2条では、電気用品を次のように定義しています。
- 一般用電気工作物(電気事業法(昭和39年法律第170号)第38条1項に規定する一般用電気工作物をいう。)の部分となり、またはこれに接続して用いられる機械、器具または材料であって、政令で定めるもの
- 携帯発電機であって、政令で定めるもの
- 蓄電池であって、政令で定めるもの
また、電気用品の中でも、構造や使用方法、その他の使用状況から見て、特に危険や障害の発生する恐れが多いものを、特定電気用品としています。また……
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2. 海外のEMC試験の要求
海外にもEMC試験の要求はあり、国や地域によって適用されるEMC規格が異なります。アメリカではFCC、ヨーロッパではCEマーキングによるEMC試験の要求があります。
・FCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)
FCCは、アメリカの通信・電信、および電波を管理する政府機関です。アメリカ国内のラジオやテレビといった無線通信や、国際通信を規制する役割があります。無線周波を発生、または利用する電気・電子機器をアメリカ国内で販売する場合は、FCC規則に従った認証を取得する必要があります。また、FCCの規制には、意図的放射器だけではなく、デジタル機器のような非意図的放射器も含まれ、それぞれにEMC試験の要求があります。
・CE マーキング
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第6回:EMC規格の種類
前回は、日本、アメリカ、ヨーロッパの代表的なEMC試験に対する要求を紹介しました。今回は、EMCの規格の種類を説明します。EMCの試験には、エミッション、イミュニティともに、多くの種類があります。試験の対象となる電気・電子機器も多種多様で、どの試験をどのレベルで適用するか決めるには、EMCの規格を参照します。EMCの規格には、試験の対象となる製品や試験方法が定められています。
1. 制定者別のEMC規格の種類
EMCの関連規格には、国際規格、地域規格、国家規格、団体規格などがあります。表1に、代表的なEMCの規格を示します。
表1:EMC規格の大別種類 | 規格の種類の例 |
国際規格 | CISPR、IECなど |
地域規格、国家規格 | JIS、IEC-J、EN、FCCなど |
団体規格 | VCCIなど |
・国際規格
EMCの国際規格の多くは、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)の専門委員会TC77と、国際無線障害特別委員会(CISPR:仏語でComité International Spécial des Perturbations Radioélectriques、英語ではInternational Special Committee on Radio Interference)が制定しています。規格の名称には、制定した各機関の略称(IEC、またはCISPR)が付けられます(例:IEC61000-4-2、CISPR11)。
・地域規格・国家規格
地域規格・国家規格は、欧州(EU)などの地域や、日本などの国が、国際規格を参照して制定した規格です。EN規格、JIS、IEC-J規格などがあります(例:EN 55011、JIS C 61000-4-2、J55011)。
EN規格は、欧州が国際規格を参照して制定された地域規格です。CEマーキング取得時に、EC指令を満たしているかを確認するための整合規格として利用されます。
日本の国家規格には、JIS(日本工業規格)の一部や、IEC-J規格があります。IEC-J規格は、国際規格(IEC規格)に準拠しつつ、日本独自の考え方を追加したものです。電気用品安全法の技術基準となります。電気用品安全法は、日本独自の技術基準と、国際規格に準拠した(IEC-J規格に基づいた)技術基準に大別できます。日本独自の技術基準は、電気用品安全法の別表第1~11に記載されています。別表第10 雑音の強さは、日本独自の技術基準です。一方、IEC-J規格に基づいた技術基準は、別表第12国際規格等に準拠した基準に記載されています。また、EMC関連では少ないものの、IEC-J規格の本文の多くは、国際規格に準拠したJISになっています。
アメリカにおけるEMCの規格には、……
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2. EMC規格の分類
国際規格のIEC のGuide107は、EMCの規格を、基本規格、製品規格、製品群規格、共通規格に分類しています(図1)。規格の適用には優先順位があり、電気・電子機器に適合した規格を選定する必要があります。
図1:IECにおけるEMC規格の分類・基本規格
基本規格は、用語、電磁環境分類、EMC レベルの仕様、電磁エミッション・イミュニティの一般的要求事項、共通的測定・試験方法などを規定しています。基本規格は、個々の製品や製品群から独立した規格で、全ての製品に適用が可能です。ただし、……
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第7回:放射エミッション試験と簡易測定
前回は、EMC試験の規格を解説しました。今回は最終回です。放射エミッション試験の方法と簡易測定を取り上げます。放射エミッション試験は、電気・電子機器から空間中に放射される電磁ノイズを測定する試験です。この試験は電波暗室で行うため、実施が容易ではありません。EMC対策としては、近傍界測定と呼ばれる簡易測定が用いられることがあります。
1. 放射エミッションの試験方法
放射エミッションは、電気・電子機器の筐体やケーブルから空間に放射される電磁ノイズで、特徴は比較的高周波(多くの規格では30MHz以上)ということです。放射エミッション試験では、電気・電子機器から放射される電磁ノイズを、周波数ごとに、アンテナを変えて測定します。
・供試装置の構成
放射エミッション試験では、電気・電子機器の構成や動作により、結果が大きく変わる可能性があります。そのため、規格により供試装置(試験対象となる装置)の構成や、配置、動作などが細かく指定されています。さまざまな機器を接続して使用するデスクトップPCを例に、放射エミッションの測定方法を紹介します(図1)。
図1:PCの構成例試験方法は、情報通信機器の自主規制であるVCCI協会(情報処理装置等電波妨害自主規制協議会)のCISPR22に準拠した技術基準にのっとります。VCCIの技術基準では、供試装置の構成が指定されています。PCの構成に必要な部分をのみを紹介します。
「代表的な使用例に従って供試装置を構成し、組み合わせ、配置して動作させること」:PCは、ディスプレイやキーボード、マウスなどの周辺装置と組み合わせて使用します。試験時も同様の組み合わせにする必要があります。
「供試装置のインターフェースポートの各々のタイプごとに最低1つのインターフェースケーブル・疑似負荷・装置を接続しておくこと。装置の実際の代表的な使用法に従って、各ケーブルは終端すること」:PCには一般的に、USBポートやLANポート、ディスプレイポート、HDMIポート、マイク・イヤホンポートなど、複数のポートがあります。これらのポートには、実際の代表的な使用法に従い、ケーブルを接続、または終端し、試験を実施する必要があります。例えば、……
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2. 放射エミッションの簡易測定
これまで見てきたように、電波暗室で放射エミッション試験を行う場合、供試装置から3m、または10mと十分に離れた場所にアンテナを設置し、測定します(遠方界測定)。一方、EMCの対策段階などにおいては、供試装置の近くで電磁ノイズを測定する簡易的な方法を採用することもあります(近傍界測定)。簡易測定の基本的なシステムは、スペクトラムアナライザと近傍界プローブの組み合わせです。ノイズの大きさなどによっては、プリアンプなどを入れる必要があります(図3)。
図3:簡易測定のシステム例簡易測定では一般的に、回路基板上に近傍界プローブを設置し、3軸の近傍界分布を測定し、ノイズ源を特定します。また、……
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