エゴと狂気の学園RPG『モナーク/Monark』を手掛けるレジェンドたちのインタビューで秘められた魅力に迫る
不思議な力場で外の世界から孤立してしまった“新御門学園”を舞台に、エゴで異能をふりかざす7人の悪魔契約者と戦いを繰り広げるRPG『モナーク/Monark』。
ここでは、本作のプロデユーサーとディレクターである林風肖さん(フリュー)と星野光弘さん(ランカース)、シナリオの伊藤龍太郎さん(代表作:『真・女神転生』シリーズ)、シナリオ監修の鈴木一也さん(代表作:『女神転生』『真・女神転生』シリーズ)、協力の西谷史さん(代表作:『デジタル・デビル・ストーリー』シリーズ)、BGM作曲の増子津可燦さん(代表作:『女神転生』『真・女神転生』シリーズ)にインタビュー。本作の立ち上げ経緯や魅力についてお聞きした。
ツイッターの質問箱に突撃するほどの熱意で
――まずはみなさんの担当した部分についてお聞かせください。
林風肖氏(以下、敬称略):プロデューサー兼ディレクターの林です。いろいろ手掛けているのでどこまでやっているのか言葉にするのがちょっと難しいです(笑)。
鈴木一也氏(以下、敬称略):シナリオも書いてますよね?
林:そうですね。話が長くなってしまうので、後でお伝えしますが本作ではシナリオも担当させていただきました。
星野光弘氏(以下、敬称略):開発全般を担当しているランカースの星野です。私個人としては開発チームのまとめ役、および全体の監修をしています。
林:星野さんは開発を担当いただいたランカースさん側のディレクションをお願いしています。
伊藤龍太郎氏(以下、敬称略):伊藤です。主に舞台となる学園の通常生徒たちの設定やシナリオを担当しました。
鈴木:シナリオ監修として参加した鈴木です。今回は監修なので、林さんや伊藤ちゃんの書いたシナリオを「もっと、こうしましょう!」と励ます役目でした。
西谷史氏(以下、敬称略):診断パートの原本を考えました。原本は、心理テストの本一冊分くらいは書いたと思います。それを、林さんに、ゲーム内の診断として適切な長さに削ってもらい、『モナーク/Monark』の世界にあうように修正してもらいました。
増子津可燦氏(以下、敬称略):BGMを担当した増子です。よろしくお願いします。
――豪華クリエイターが多数参加する『モナーク/Monark』ですが、どのように企画がスタートしていったのか教えて下さい。
林:本作は私と星野さんとで最初は企画を練りました。両者が好きなものや、今プレイヤーのみなさんから求められるものはなんだろうと考えていくなかで、形になっていったのが本作でした。本格感のあるダークな世界観と、現代的なエッセンスの融合をうまく果たせたのではと考えています。ちなみに、本作の内容をみれば私たちが好きな作品やコンテンツがどういうものかは一目瞭然だと思います。
――今回のクリエイター陣はどのようにお声がけされたのでしょうか?
林:パッションと熱意でダイレクトアタックしました(苦笑)。
――もとからお知り合いというわけではなく、ラブコールを送ったんですね。
林:多くの方はそうですね。伊藤さんのときなんかはメールアドレスも公開されていなかったので、Twitterの質問箱からメッセージを送らせていただきました。
伊藤:「お仕事のご相談をさせていただくことは可能でしょうか?」というメッセージが質問箱に届いてビックリしました。
林:なお、鈴木さんは共通の知り合いがいたのでつないでもらい、西谷史先生は鈴木さんにお繋ぎいただいてご相談させていただきました。増子さんは弊社の別タイトルでご縁があったので、その縁でご連絡させていただきました。
――みなさんは『モナーク/Monark』の企画を聞いたときはどう思われましたか?
伊藤:最初に林さんにダイレクトアタックを受けたあと、打ち合わせにお伺いさせていただきましたが、その段階で「こういう作品が作りたい」というコンセプトがしっかり決まっている印象でした。第一印象としては、「あぁ、これはあの作品に影響を受けてる人なんだな」と思いました(苦笑)。話を聞いていくなかで、その作品が好きだという情熱がすごく伝わってきて、いつのまにかその熱気に当てられてしまいました。
――伊藤さんとしては過去に完成させたようなものを、もういちど作ることについて戸惑いはありませんでしたか?
伊藤:『モナーク/Monark』は過去作をリスペクトしながらも新しい挑戦が感じられるタイトルでした。そのため、参加できることはすごく楽しみでした。
鈴木:自分も企画を聞いた段階で過去作が思い浮かびましたが、話を聞いていくと今風の新しいエッセンスがありますし、システムのほうもすごく挑戦的で斬新で驚きました。“異界” に移動するときの設定などが自分の温めていたゲームと被っていたので、そこは嫉妬しましたが(苦笑)。
林:それは初耳です(笑)。
増子:自分はある程度シナリオが出来ている段階で呼ばれたので世界観はすでに出来上がっていました。そのとき自分は『カリギュラ2』も受けていたので曲が被らないようにしなければならないと思いました。ただ、『カリギュラ』がキレッキレの曲をオーダーされたことに対して、『モナーク/Monark』はゴシック調の曲だと聞いたので、それならアプローチがまったく違うなと。また、『モナーク/Monark』は打ち込みだけではなく生音を入れて欲しいとお願いされたので、おもしろいなと思いました。
――実際の作業は『カリギュラ2』が終わってから『モナーク/Monark』に取り掛かった感じでしょうか。
増子:いや、『カリギュラ2』が先行していたものの同時進行のときもありましたね。そのため、頭の切り替えが大変でした。
林:制作スケジュールで言うと、『モナーク/Monark』を最初にやって、『カリギュラ2』に移り、また『モナーク/Monark』をやるという形でしたね。
増子:そうですね。『モナーク/Monark』のほうが先に相談されたので、こちらから取り掛かっていました。
――星野さんは最初に林さんと企画の打ち合わせをしたということですが、そのときの感想はいかがですか?
星野:林さんと話をしていくなかでゲームの内容が固まっていき、こういうテーマならばいろいろ面白いことができるだろうと思っていたところ、参加メンバーを聞いて一気に「本当にこのメンバーでやれるの!?」と急にプレッシャーを強く感じたのを覚えています。大変だろうけど絶対に良い作品にしなければと強く感じました。
――西谷さんはどうでしょうか?
西谷:ぼくにとって、ゲームを作るいちばんの楽しみは、新しいシステムを考えることでした。でも90年代の終わり頃から、既存のシステムに合ったストーリーを考えることだけを求められるようになり、ゲームの世界から遠ざかりました。ところが林さんは、ぼくに、心理テストを使ったシステムを作りたい、という話だけをしてくれました。また、『モナーク/Monark』の企画を聞いて、このゲームの根幹はアドラー的な世界観だと気づき、「よし、やろう!」と久しぶりに燃えました。
――西谷さんから見て、『モナーク/Monark』はどのようなところが魅力の作品ですか?
西谷:『モナーク/Monark』は、アドラー心理学的なゲームだと思います。欲望は押さえ込むべきものではなく、力の源泉になり、ときには善にもなる。欲望を肯定的に捉えたのが、ぼくから見たこのゲームの魅力です。
――『モナーク/Monark』には多彩なクリエイターが参加していますが、参加しているクリエイターを知ったときの感想はいかがですか?
西谷:もともと鈴木一也さんに林さんを紹介されましたから、『女神転生』『真・女神転生』当時の人が集まるかもしれないと予想はしていました。でもそれは最高に面白いことです。あくまでもぼくの見方ですが、『真・女神転生』はユング心理学的なゲームの成功例だと思いますが、『モナーク/Monark』は、ユング心理学の対極にあるアドラー心理学が根幹にあるゲームだと思うからです。
――今回のインタビューに参加していないクリエイターについても、林さんからお聞かせください。
林:キャラクターデザインのso-binさんに関しては企画が固まりきらない早い段階でオファーしました。私も星野さんもso-binさんのイラストはすごく好きでしたし、so-binさんの描かれる唯一無二の魅力あるキャラクター、イラストであれば、新規タイトルである今作のブランドイメージを確固たるものにできると思いました。ちなみに、so-binさんにお声がけしたところ、ちょうど学園モノ、現代モノの作品をやりたいなと思っていたところだったので是非! と快諾いただけました。
――インサートイラストのウエダハジメさんについては、いかがでしょうか?
林:本作にウエダさんのイラストが映えるような心理的な特殊な描写があるため、その部分をお願いしました。心象風景を表現するのにデフォルメの効いた独特なタッチがいいなと思ってウエダさんに参加していただきました。なお、ウエダさんも鈴木さんたちの創る作品が好きということで、快く参加していただけました。
――主題歌、挿入歌を担当しているKAMITSUBAKI STUDIOはどうでしょうか?
林:KAMITSUBAKI STUDIOはアーティストやコンポーサーの方々のクリエイティブがどれも神秘的かつ、哲学的なんです。主題歌を歌ってくださるアーティストの花譜さんはコンサートなどで毎回「絶対生きて、また会いましょう」と締めくくってくれるのですが、そういう温かく寄り添ってくれる空気感が全体にあるんですよね。本作はダークな世界観ではあるのですが、突き放して終わるような作品ではなく、最終的には自分の持つエゴを好きになって欲しいという自己肯定のメッセージもあります。そういう意味でもピッタリだなと思い、KAMITSUBAKI STUDIOにお願いすることにしました。
100人のキャラクターに設定が存在
――ストーリーについてお聞かせください。本作のシナリオはどのような流れで制作されたのでしょうか?
林:最初に私のほうから鈴木さんと伊藤さんにシナリオの相談をしたのですが。その打ち合わせや会食のなかで、私自身が当時のお二人のように、プロデューサーやディレクターだけでなく仕様を切りつつシナリオも書くようなゲームクリエイターになりたいという展望を話していました。そんななか、シナリオ会議のブレストで私からもおふたりにプロット案の資料をお見せしたところ気に入っていただき、「書けると思うしチェックや監修はするから、林さん自身が書いてみたらどう?」と背中を押していただき、自分が書くことになりました。
――最初は林さんが書く予定ではなかったんですね。
林:まったくもって、そうですね。最初は伊藤さんにシナリオを書いていただいて鈴木さんに監修していただく予定でした。ただ、背中を押していただけたこともあるので、胸を借りるつもりで精一杯頑張ってみました。鈴木さんが監修でキャラクターの深堀りの仕方などについてしっかりアドバイスをしてくださったこともあり、キャラクターたちのエゴや人間性といった魅力もしっかり描けていると思っています。また、最終的に伊藤さんが携わってくださったのは学園にいる生徒たちのシナリオなんですが、こちらは、それぞれに名前と設定が存在する生徒100人のお話になります。ひとりひとりにしっかり自我があり、生きた魅力を感じています。
――伊藤さんと鈴木さんはお話を聞いていかがでしたか?
伊藤:最初に林さんからお話をお聞きしたときに、すでに林さんのなかでお話のコンセプトや、どういう雰囲気のものにしたいかというビジョンがしっかりあるのが印象的でした。
林:たしかに暗いだけの作品にはしたくない、というのは考えていましたね。シナリオの構成や、展開については、伊藤さんや鈴木さんとお話していくなかで固まっていきました。
伊藤:先のお話にあったように主なシナリオは林さんにお任せしたのですが、シナリオ会議のなかで学生たち100人の物語を用意する話がでてきました。学園にいるそれぞれの生徒たちにもキャラクター性を持たせて生きたキャラクター、生きた舞台にしたほうがいいよねという話があって。それで、自分が担当して書くことになりました。
――100人ものの設定を作るのは大変だったのではないでしょうか?
伊藤:設定を考えるのは自分の中ではそんなに大変ではなかったです。どちらかというと、その量を書く実作業が大変でした。鈴木さんから「こんなにいい設定なのに、生きてないじゃん!」とダメ出しを食らったりもしました(笑)。ただ、林さんからも「このキャラクターはこういう風にしたほうがいいのでは?」といったアドバイスをいただいたりもして、私自身が勉強になることもたくさんありましたし、書いていて楽しかったです。
――鈴木さんはシナリオの監修をしてみていかがでしたか?
鈴木:シナリオ会議を何度もおこない、内容を揉んでいきました。林さんと伊藤ちゃんが書いたものにいちゃもんをつけるのが私の仕事でしたが、設定がすごくおもしろいので「ここをこうしたらもっとドラマがおもしろくなるんじゃないか」というところを突っ込んでいきました。ちょっと上から目線の言い方になってしまうと、林さんと伊藤ちゃんが役者だとすると、自分は監督として演技指導をするような立ち位置でした。
――増子さんは世界観が完成してから作曲作業をされたということですが、イメージはしやすかったですか?
増子:シナリオのイメージというよりは林さんがどういう世界を作りたいかを考えました。シナリオが完成しても、作りたい人がダークにしたいのか明るくしたいのかによって音楽の方向性は変わってくると思います。その作品をどういう色で包みたいのかというのが重要かなと。そのため、林さんとの世界観のすり合わせに時間をかけましたね。とはいえ、シナリオのほうもこっそり読んでいましたが(笑)。
林:増子さんにも「これで大丈夫ですかね?」と何度もシナリオをお見せしていました(笑)。
――林さんは増子さんにどのようなオーダーをしましたか?
増子:リアルな重厚感が欲しいと言われましたね。
林:最初の資料には“理不尽と狂気、それに打ち勝つ重厚な楽曲”という青臭いことを書きました(笑)。
タイプの異なる4人のバディたち!
――ストーリーや世界観についてお聞かせください。
林:全体のイメージとしてはダークですが、主人公やバディたちの明るい日常会話なども描いておりますし、エンディング的にもただ暗いだけの作品にはならないようにしました。メインストーリーもちゃんと救いのあるものになっています。
――ストーリーに分岐はあるのでしょうか?
林:仲間となるバディを誰にするかによって物語が分岐します。ストーリーは2部構成になっており、1部ではバディたちと知り合って誰とバディを組むか選ぶことができます。2部になってからはバディが固定になり、そこからそのバディとのストーリーが進んでいきます。なお、1度ストーリーをクリアすれば次からは2部がはじまる直前の分岐の冒頭からゲームを開始できるようになっています。
――主人公についてお聞かせください。どんな設定になっているのでしょうか?
林:プレイヤー自身で名前を付けることができ、プレイヤーの分身なので自分からセリフを発したりはしないです。どのバディと仲良くなるかを選択でき、その結果によって物語が分岐します。なお、主人公は契約者のひとりで“虚飾の権能”という異能を持つ人物です。
――バディとなる4人のキャラクターについてもお聞かせください。
林:バディの4人は、遊ばれる皆さんそれぞれで刺さるキャラクターが異なるとうれしいなと思いながら作りました。望ちゃんは明るいキャラクターで、裏で設定しているテーマは“希望”とチェスのコマである“騎士”です。格好良くて優しい、少女漫画の主人公のようなキャラクターをイメージしました。
鈴木:4人のなかではいちばんヒロインっぽいキャラクターですね。ただ、それだけだとつまらないと思い、どんどん深堀りをしていきました。林:信哉に関しては“信仰”がテーマで、チェスのコマだと、男性ですが“クイーン”です。外見は可愛らしく、主人公との関係性が物語のなかでいちばん変化します。
鈴木:育ての親が学園長で、彼らに対しての信仰や信頼を第一にしています。
林:彼は自己肯定感が低く、自分が好きな人への期待に応えようという気持ちが強いです。
伊藤:健気で忠誠心が強いですよね。
林:そうですね。なお、本作には契約者とそうではないキャラクターが登場しますが、信哉は契約者ではなく、彼は契約者のことを恨んでいます。
――こころに関してはいかがでしょうか?
林:望と信哉は契約者では無いですが、こころと凌太郎は契約者になります。こころは“怠惰”というテーマを持っており、チェスのコマだと“ビショップ”がモチーフです。安心安全が主義主張です。学園が大変なことになったことの問題解決のために、主人公に助けを求めてバディになります。
鈴木:彼女は並外れた知能を持っていますし、”怠惰の権能”という異能により先のことがわかる天才無口キャラです。そして、完全な陰キャでもあります(苦笑)。なお、このこころちゃんはこちらが意見や指摘をしなくても林さんのほうから文句のつけどころのないシナリオが生まれていたので、林さんのなかで最初から完成形があるのだなと思いました。本作ではユーザーさんそれぞれにハマるキャラクターというのを想定していますが、林さん自身にハマるキャラクターというのがこころだったんですね(笑)。
林:私は立場上、全キャラハマっていて飛び抜けて誰かにハマってることはないと主張しますので、記事には鈴木さん個人の見解ですと入れておいてください(笑)。望だったら少女漫画の王道ヒロイン感、信哉だったらダークヒーロー感だったり、それぞれのキャラクターに色があるのですが、こころはギャルゲーに登場するクールタイプのヒロイン感を意識しています。自分自身もそういった美少女の登場するゲームが好きなので、シナリオが書きやすかったのかなと思います。
――最後に凌太郎についてお聞かせください。
鈴木:凌太郎は金持ちで自由奔放なキャラクターですね。
林:彼は御曹司ですが、笠に着るようなタイプではなく風来坊で自由な人物です。テーマは”暴食”で、チェスのコマだと“ルーク”がモチーフです。彼には彼の確固たる理念があって、契約者であることを憚らずどうどうと主人公にバディにならないかと話しかけてきます。一見するとアニキ系で頼れる人物ですが、方向音痴だったりとヌケているところがあり、そこも魅力になっています。
鈴木:典型的なアニキキャラにならないように気をつけましたが、最終的にはいいところに落ち着いたかなと思います。
林:たしかに、アニキキャラでもありますが、ハードボイルドな印象もありますよね。熱血というわけではないですし。
鈴木:普通の人が考えていることよりも一歩上をいくようなことを考えている頭のいいキャラクターです。
――バディは個性的なキャラクターが揃っていますね。最初にどのキャラクターにしようか迷いそうです。
鈴木:バディは陽キャと陰キャで見事に分かれていますね。
林:明るい暗い以外にも、男女でも分かれているし、契約者かどうかでも分かれていますね。
――味方は契約者と契約者ではないキャラクターに分かれているということですが、敵に関してはいかがでしょうか?
林:敵はすべて契約者となります。探索パートや戦闘パートで、どの人物が契約者かじょじょに判明していき、彼らがどんな望みを持っているのかもわかっていきます。
――なるほど。最初は誰が契約者なのかわからないんですね。
鈴木:そうですね。その謎を探っていくのもシナリオの楽しみですね。また、4人のバディ以外に主人公の妹である千代がキーパーソンとして登場します。
伊藤:千代はただのカワイイ妹というだけではありません(苦笑)。
林:いや、カワイイだけのキャラクターですよ(笑)。
鈴木:プレイしてからのお楽しみということで。なお、彼女は主人公や各キャラクターを繋いでくれる役目を持つキャラクターです。主人公がしゃべらないので、その代わりに彼女がたくさんしゃべります。
林:本作は基本的にシリアスなストーリーが多いのですが、拠点となる場所で会話のイニシアチブを取ってくれるのが妹の千代ちゃんになります。彼女のおかげでキャラクターたちの明るい側面を見ることが出来ます。
鈴木:そして、その千代ちゃんのファンクラブのシナリオを伊藤ちゃんが作ってくれましたよね。
伊藤:キャラクターの数は多いので、そういうお遊びを入れる余裕がありました。林さんには「これがいちばん書きたかったんですよね?」と言われました(笑)。
――100人のキャラクターはそれぞれシリアスだったりコメディだったりと雰囲気が異なるのでしょうか。
伊藤:そうですね。学園は大変な状況になっていますが、前向きでポジティブな人物もいれば、「もう死ぬんだ」と絶望的になっている人物もいますね。ただ、主人公たちが戦いを繰り広げることで、ネガティブだった考えが変わったりもするキャラクターもいるので、その変化にも注目してみてもらいたいです。
――増子さんはキャラクターに紐づくBGMなども制作されたのでしょうか。
増子:そうですね。ただ、最初はそのキャラクターのイメージで作ったものの、なんでこんな曲になったんだろうというものも多いです。そのため、出来上がった曲を自分で聴くとおもしろいですね。
鈴木:不思議な化学反応があったわけですね。
増子:そうですね。ただ、それぞれで曲の違いを出すのは大変でした。アプローチやテンポ、楽器を変えたりとバラエティが出るように注意しました。
――ボス戦というと激しいドラムのアップテンポな曲が多いイメージですが、本作はバラエティにあふれていると。
増子:四つ打ちの曲があったり、クラシックの曲もあったりします。
――ほかにみなさんオススメのキャラクターはいますか?
林:オススメというかご紹介したいのは、保険医のカケルです。主人公が学園で目覚めたときに近くにいるキャラクターで頼れるお兄さんといった感じですが、人の名前を覚えなかったり机の上がぐちゃぐちゃだったりとダメな部分があり親近感の持てるキャラクターになっています。保健室にいくとMAD値というプレイヤーの発狂度を回復できるので何度も通うことになると思うのですが、そのやりとりのなかで、彼に親しみを頂いてもらえればと思います。また、バニタスというマスコットキャラクターにも注目してほしいです。外見は可愛らしいぬいぐるみですが、仰々しい喋り方をするキャラクターでCVも大御所の千葉繁さんにお願いしました。不気味な雰囲気で登場しますが、いきなり主人公に耳を掴まれてビックリするなど愛嬌を見せたりします。これまでのマスコットキャラクターとは違った魅力のあるキャラクターになっていると思います。
――ほかのみなさんはお気に入りのキャラクターはいますか?
鈴木:私は陰キャが好きなのでこころが好きですね。あとは学園長であるソラさんの妖しさも好きです。大人の魅力が出ていると思います。
伊藤:私は凌太郎です。名前が自分と似ているという単純な理由ですが(笑)。なお、キャラクターの名前は打ち合わせのなかで変わっていきましたが、凌太郎はとくに何度も変わって気付いたら自分の名前に近くなっていました。陽キャな性格で自分が持っていないアニキ的な部分を持っているところも憧れますね。あとは執事の優悟も紳士で頼りがいのあるキャラクターで好きですね。
林:優悟は最初は用務員という設定だったのですが、伊藤さんから設定が弱いという指摘を受けて、現在の執事という設定になりました。伊藤:この人なら執事でもおかしくないし、この学校も執事がいてもおかしくないなという話をしていました。
増子:自分はバニタスが好きですね。濃いキャラクターが多いですが、そのなかでもバニタスはインパクトが強くて忘れられないキャラクターです。
星野:自分は開発をしていることもあって、どのキャラクターも思い入れは強いですがその中でも特に保険医のカケル先生です。普段はおちゃらけているのですが、たまに真面目になるところのギャップが好きですね。異界から生還した際に保健室で彼の冗談を聞くとホッとします。
西谷:駿河台こころちゃんです。ちゃんって言ったら、怒られるのかな(笑)。とっぴょうしもない子のように見えて、実はいちばんリアリティーがある。つまり、現実にいそうなキャラクターだからです。それにぼくの性格からして、怠惰を望む人が側にいると、居心地がいいように思います。
プレイヤーのエゴによって仲間になる悪魔の順番が変化!
――ゲーム部分についてお聞かせください。どのような作品になるのでしょうか?
林:まず探索パートがあり、学園のなかの霧がかかっている部分に入ると電話の着信を受けることができます。電話を取ると異界へと移動でき、異界ではバトルが発生し、勝利することでシナリオが進行していきます。
――バトルはどのような仕組みになりますか?
林:基本的にはターン制のRPGですが、自分の行動ターン中に自由に移動ができ、どの位置から攻撃するか選択することができます。背後から攻撃することでダメージが上がったり、逆に正面から攻撃すると反撃されてしまうといったデメリットもあったりします。あとは味方の近くで攻撃をすると協力攻撃をしてくれたりと位置取りが重要になっています。
――主人公とバディのふたりで戦うことになるのでしょうか?
林:戦闘は最大で6人パーティーです。バディ以外に、外見をカスタマイズできる悪魔”眷属”を仲間として連れていけますね。また、特定シーンではバディ候補となるキャラクターたちを複数連れて行くこともできます。第2部はバディが固定となるので、そのバディと冒険することになります。
――眷属はどのようにして仲間にするのでしょうか?
林:シナリオの進行によって自動で仲間になります。七つの大罪になぞらえた、全部で7つの属性がいるのですが、スキルツリーが異なり、回避が得意だったり回復が得意だったりとそれぞれ得意なことが異なります。なお、仲間になる順番についてですが、主人公のエゴによって変わってきます。具体的には1番エゴの高いものに対応した属性の眷属から順番に仲間になっていきます、
――エゴはどのように決定されるのでしょうか?
林:ゲーム冒頭の診断にプレイヤーが答えることで、傲慢、憤怒、嫉妬、色欲、強欲、暴食、怠惰、それぞれの欲求値が変化し、それが最初のエゴのステータスになります。その後はゲーム中の行動によってエゴが変化していき、高いエゴの属性に対応した悪魔から順番に仲間になるようになっています。
鈴木:そのエゴ診断の部分を西谷さんに制作してもらいました。西谷さんは占いソフトなども制作されていますので、本格的な診断になっています。
西谷:『モナーク/Monark』では、七つの欲望を肯定的にとらえ、自分はどの欲望が強いかを知るために五つの診断を受けてもらいます。その中の、たとえばテキストアドベンチャータイプの診断は、ぼく達がどういう意図で質問しているかがわかるように作りました。一方、グラフィクスを読み解く診断には、みなさんが初めて経験するものもあると思いますし、質問の意図を容易には読み取れなくしてあります。その両方を組み合わせることに、こだわりました。
――本作のプロデューサーである林さんとはどのようなやり取りをしましたか? また、西谷さんから見て林さんはどのようなクリエイターですか?
西谷:エゴ診断をプレイヤーのパラメータにどう反映させるか、ということを何度も話し合いました。そこは完全に意見が一致していたと思いますが、ぼくは設問で、つい細部までこだわった書き方をしてしまい、林さんに修正したり削ったりしてもらいました。林さんについてですが、一般に、ゲームクリエータは俯瞰的にゲームの全体像を捉えて制作するタイプの人と、一つひとつのイベントを積み上げて制作するタイプの人に分けられます。林さんは両方ができる人です。一緒に仕事をして、これは強く印象に残りました。
――本作はエゴが重要なキーワードになる作品ですが、西谷さんはどのエゴが強いと思いますか?
西谷:自分が作ったテストをまっさらな気持ちで試すと、“憤怒”“嫉妬”が強く、“色欲”“暴食”は弱くなります。まあ、実際そうなのかもしれません。
――エゴの数値は下がったりもするのでしょうか?
林:下がることはなく、ずっと上がり続けます。エゴや欲求という言葉を使うと汚らしいイメージになってしまうのですが、傲慢だったら自己肯定欲、怠惰だったら賢さや合理主義、暴食だったら成長欲求のように、本作では各欲求が必ずしも悪いものの象徴ではありません。そのため、今作上の欲求値が高くなっていくことはより人間らしくなるということだと思っていただければ。
――ランカースさんの作品というと、ゲーマー向けの歯ごたえのあるものが多い印象ですが、今回はどのようなターゲット層を想定されていますか?
星野:本作はストーリーが主体で、システムはそこまで難しくはないと思います。キャラクターの成長も割と自由に組み換えが可能です。それでも難しく感じる場合は、バトル難易度をやや下げたカジュアルモードも搭載しています。一方でやり込み要素も様々なものがありますのでゲームのクリア後も楽しめるはずです。
――最後に本作の発表を聞いて発売を楽しみにしているファンにひとことお願いします。
伊藤:理不尽な状況に見舞われた状態からどのように行動するのかというのが重要なテーマですが、ゲームシステムを含めて作り込まれているのでぜひたのしみにしていただければと思います。そのなかで自分がシナリオを手掛けたキャラクターたちの動向にも注目してみてもらえるとうれしいです。
鈴木:自分は今、学校で講師として生徒たちに授業をしていますが、RPGは没入感であると教えています。没入感を生むためにはいろいろな要素がかみ合って共鳴している必要がありますが、『モナーク/Monark』は揃っています。閉じ込められた生徒たちが必死に生きて、もがいている姿に注目していただければと思います。
西谷:これは欲望を肯定し、それを力の源泉にするゲームです。欲望は悪ではありません。それは力の源泉となり、しばしば善の源になることもあります。まさにいまの時代、いまの世界を象徴するゲームです。トライしていただければ、あなたの世界観が変わるかもしれません。
増子:今回は楽器を生で録音して、取り込んだ曲がたくさんあります。これまで自分は打ち込みで曲を作ることが多かったですが、それとは違って、演奏する人がアドリブを提案してきたりドラムに独特の抑揚が出たりと生っぽい雰囲気が出ているのでその点もうれしいです。
星野:現在、開発は完成に向けてラストスパートを迎えています。ゴシックな雰囲気をもった学園を舞台に、エゴをテーマとしたストーリーが展開されます。バトルシステムに関しても、フリームーブによる位置取りと技の組み合わせで様々な攻略ができるので、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。
林:作品が気になり、このインタビューを読んでいる人であれば確実に楽しめる作品に仕上がっていると思います。自分ならどのバディを選ぶかや、自分のいちばん高いエゴはなんだろうかなどを考えながら、楽しみにお待ちいただけると嬉しいなと考えています。
カワチ:RPGとビジュアルノベルが好きなゲーマーで、誰にも気付かれないようなマニアックな小ネタを記事に織り込むのが好き。深みのあるゲームが好きかと思えば、本当は肌色が多ければなんでもいいビンビン♂ライター。