心が絶対熱くなる「ジェフ・ベゾスの仕事の名言」
『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾン本社の経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本として大きな話題になっている。アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした、画期的な一冊だ。本稿では『アマゾンの最強の働き方』より特別に、ベゾスが大きな失敗に直面して語ったことを紹介する。
Photo: Adobe Stock史上最大規模のプロジェクト
アマゾン・ファイアフォンについて簡単に触れておきたい。発売するまでのプロセスは適切だったが、失敗に終わったプロダクトだ。
その開発は、アマゾン史上最大規模のプロジェクトだった。第一の差別化要因は「ダイナミック・パースペクティブ」と呼ばれる機能だった。4つのカメラとジャイロスコープを駆使して3D画像を表示する機能である。そのほかにも数々のイノベーションが生まれ、もちろん電話としての標準的な機能についても顧客体験の向上を追求した。
総勢1000人以上が開発に携わり、ワンタッチ・カスタマーサービス、アマゾンのクラウドに写真を無料で保存するサービス、時計、カレンダー、音楽プレイヤー、キンドルなど、30ほどのアプリが搭載された。
ファイアフォンは2014年6月に発表、7月に発売された。そして2015年8月に製造を中止した。
何が起こったのだろう?
ファイアフォンでも「PR/FAQ」の手法を駆使したが、顧客にとっての本当に重要な課題を解決することも、特段素晴らしい体験を提供することもできなかった(「PR/FAQ」とは、新商品を考案するに際して、開発に着手する前にまずプレスリリースを書くことによって完成形のイメージをつかむアマゾン独特の方法。詳細は本書参照)。
私(ビル)は、2012年にこのプロジェクトの概要を初めて知ったとき、クールではあるが、本当にスマートフォンに3D効果は必要なのだろうかと疑問に思ったのを覚えている。発売日当日のプレスリリースを一部紹介しよう。
ビジネスワイヤー、シアトル、2014年6月18日(ナスダック:AMZN) アマゾンは本日、同社がデザインした初のスマートフォンとなるファイアを発表しました。ファイアはダイナミック・パースペクティブとファイアフライという、2つの画期的な技術を搭載した唯一のスマートフォンであり、まったく新しいレンズを通して世界を見て、触れ合うことを可能にします。 ダイナミック・パースペクティブは、ユーザーのファイアの持ち方、視点、動かし方に反応する斬新なセンサーシステムを用い、ほかのスマートフォンでは不可能な体験を実現しました。ファイアフライは、現実世界に存在する物事──ウェブやメールのアドレス、電話番号、QRコード、バーコード、映画、音楽、無数の商品など──を素早く認識し、用意されたボタンによって簡単に操作することができます。できるのは「意思決定の質を高める」ことだけ
もう1つの反省点として、ファイアフォンは値段が高かったことがあげられる。アマゾンの基本理念の1つは「倹約」であり、それまで世界に対し、コスト効率が高く、既存のビジネスモデルを打破する企業であることを示してきた。
顧客にとって、基本原則はあくまでも低価格だ。ところがこのときはiPhoneと同額の200ドルで販売し、さらにキャリア(通信会社)との2年契約が必須だった(200ドルはいまでは安く感じるかもしれないが、当時の携帯電話はキャリアの費用負担があり、価格がずっと安かった)。私たちは価格を99ドルに下げ、その後さらに無料にした。だが効果はなく、だれも欲しがらなかった。
最後に、ファイアフォンは市場への参入が遅く、しかも使えるキャリアがAT&Tの1社しかなかった。当時、iPhoneは4つのキャリアで利用でき、各キャリアが複数ブランドの機器を幅広く展開していた。
仮にファイアフォンを、機能はそのままで、プライムの会員権もつけてiPhoneより安く提供していたら結果は違っていただろうか? ひょっとしたら違ったかもしれない。
だがこの話のポイントは、正しいプロセスによって成功の確率は高まるにしても、決して保証されるわけではないということだ。
ファイアフォンの開発にはジェフ(ベゾス)も深く関わっていた。プロジェクトリーダーのイアン・フリードとキャメロン・ジェーンズと並び、実質的にPR/FAQの執筆者の1人だった。
ジェフもチームも顧客が喜ぶスマートフォンを開発していると信じていた(あるいは、そう考えて自分を納得させていた)が、間違っていた。どんなにすぐれたプロセスでも、できるのは意思決定の質を高めることだけだ。人間に代わって完璧な意思決定をすることはできない。
「ホームランを打つにはそうするしかありません」
ファイアフォンが失敗しても、ジェフが開発のプロセスを疑問視することはなかった。彼はこう書いている。
「ホームランを狙ってフルスイングすれば、何度も三振に終わるのは目に見えていますが、いずれホームランを打つにはそうするしかありません」
ホームランを打っても最大4点しか入らない野球とは違い、ビジネスで大きく当たれば無限に近い得点が入ることもある。大事なことは、何度も失敗し、冴えない成果しか生まない実験を何度も繰り返せる少数の企業だけが、大成功を収めることができるという事実だ。
ファイアフォン撤退後のあるインタビューで、この失敗について問われたジェフはこう答えている。「あれを大きな失敗だと言うなら、私たちはいま、もっと大きな失敗をめざしています。冗談を言ってるんじゃないですよ」
発明の規模、そしてそれに伴う失敗の規模は、組織の成長に合わせて大きくしていくべきだ。そうでなければ、企業を次の段階に発展させるに足るインパクトのある発明は実現しない。
「一方通行」と「往復可能」のドアを区別する
企業は大きくなるほど、「発明マシン」として動き続けるのが難しくなる。その妨げの1つとなるのが、状況と関係なく発動される画一的な意思決定パターンだ。
ふたたび2015年の株主への手紙を引用すると、ジェフはこう書いている。
「意思決定のなかには、必然的で、ほぼ後戻りできない、一方通行のドアのようなものがあります。このタイプの決定は、系統的かつ慎重に、熟考と議論を重ねて行わなければなりません。結果に納得できなくても、元の場所には引き返せません。これをタイプ1の決定と呼びましょう。しかし、大半の決定はそうではなく、往復可能なドアを通るタイプ2の意思決定です。うまくいかなかったら我慢する必要はなく、ふたたびドアを開けて後戻りしてやり直せばよいのです。判断力にすぐれた個人や規模の小さなグループなら、このタイプ2の決定を迅速に行うことができます。というより、そうすべきなのです」
有料会員サービスのアマゾン・プライムは往復可能なドアの決定だった。サブスクリプション、無料配送、迅速な配送という組み合わせが支持されなければ、うまくいくまで組み合わせをあれこれ試していただろう。
現にプライムは最初から成功したわけではない。それ以前にスーパーセイバー・シッピング(配送を急がないことで配送料を安くできるサービス)という、やり直し可能な決定があり、それが最終的にプライムへと姿を変えたのだ。
一方でファイアフォンは、一方通行の決定に近かった。アマゾンは市場から撤退を決めたとき、Uターンして「仕方ない、別のスマートフォンで試してみよう」と考えることはなかった。
大企業は、一方通行ドアの意思決定を想定したプロセスを構築しがちだ。誤った決定によって大惨事を招くことを恐れているからだ。そのプロセスは一般的に緩慢で煩雑、リスク回避に満ちている。往復可能であるべき意思決定についても、深く考えずに一方通行のプロセスを当てはめてしまう。
その結果、前進する速度が鈍り、アイデアを生む力が損なわれ、イノベーションが停滞し、開発サイクルが長期化する。
だからアマゾンは、スタートアップの精神を失わないよう、スピード、敏捷性、リスクを受け入れる姿勢を重視する。もちろん、最高の水準にこだわり続けながら。このような気質は、創業間もないころから「アマゾニアンであること」の一部となっている。
1999年にジェフはこう書いている。
「私たちはあらゆる試みにおいて、継続的な改善、実験、革新にコミットしています。私たちのDNAにはパイオニア精神が組み込まれています。成功を収めるためには、パイオニア精神が不可欠なのです」
(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)
『アマゾンの最強の働き方』とは?元参謀が詳細な働き方を公開した初めての書!
『アマゾンの最強の働き方』は、アマゾンで長年経験を積んできた、ジェフ・ベゾスの参謀が、アマゾンの働き方から経営手法まで、成功の秘密を具体的に明かしたきわめて貴重な1冊だ。
著者の1人、コリン・ブライアーは12年間アマゾンに在籍、バイスプレジデントを務めたのち、「ジェフの影」としてCEO付きテクニカル・アドバイザーなどを歴任。ビル・カーは15年間アマゾンに在籍、バイスプレジデント、ディレクターなどを歴任。
2人はキンドル、アマゾン・プライム、アマゾン・スタジオ、AWS(アマゾン・ウェブサービス)などを生み出した驚異的なイノベーションの時代に経営層として活躍。現在はアマゾンの手法を、個人や企業に生かすための手助けをしている。
本書では、アマゾンが掲げている「14の行動規範」、顧客のニーズからさかのぼって発想する思考法「ワーキング・バックワーズ」、パワポを使わずに「6ページ資料」の黙読から進める会議法、次々と基準を上げていく人材採用法「バー・レイザー方式」といった、アマゾンの独自の仕組みを、誰もが導入できるよう体系化。
さらには、「長期的思考」「顧客へのこだわり」「最高水準の追求」「深掘り」といったアマゾンの哲学をビジネスに落とし込む方法についても事例とともに解説する。
また、キンドルやプライム、AWSといった世界的ヒット商品の開発について、どのようなきっかけから苦闘を経てローンチに至ったか、知られざるインサイドストーリーを実体験として詳細に明かす。
本書を読めば、スキル、キャリア、組織の大小にかかわらず、アマゾンの手法を活用するさまざまな方法が見つかるはずだ。現代のビジネスにおける、究極の仕事の教科書だ。
本書目次より
『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』コリン・ブライアー、ビル・カー著、紣川謙監訳、須川綾子訳、ダイヤモンド社■PART 1:アマゾンの働き方──仕事のプリンシプルChapter 1:土台──「プリンシプル」を心に刻むChapter 2:採用──「バー・レイザー方式」で厳選するChapter 3:組織──「シングルスレッド・リーダー」が率いるChapter 4:コミュニケーション──「6ページ」で伝えるChapter 5:ワーキング・バックワーズ──「理想的な顧客体験」からスタートするChapter 6:評価指標(メトリクス)──アウトプットより「インプット」を見る
■PART 2:創造の方法──新たなものはこうして生まれるChapter 7:キンドル──決断したら「迅速」に行動するChapter 8:プライム──「顧客へのこだわりと長期的思考」を貫くChapter 9:プライム・ビデオ──「サブスクリプション」の難題を解くChapter 10:AWS──「ワーキング・バックワーズ」で成功をつかむ