EVバッテリーはどんな性能試験を行っているのか…バッテリー安全認証センター見学
エスペックは、環境試験器のトップメーカーのひとつ。2015年から「バッテリー安全認証センター」を開設し、さまざまなテスト、性能試験を行っている。近年はEV用バッテリーのテストも多く、専用の設備でニーズに対応している。
エスペックのバッテリー安全認証センターの内部を見学する機会を得た。その様子をレポートする。
エスペックでは、テュフズードジャパンとの業務提携により、二次電池の国連協定規格「UN ECE R100-02. Part II」に対応した9つの試験項目をすべて検証できる設備を用意している。EV用のバッテリーはセルサイズ、パックサイズが携帯電話やPC用より巨大になるため、テストチャンバー(恒温槽)やバンカー(コンクリ製の建屋)も専用となる。
一般的なチャンバーは温度管理ができる業務用冷蔵庫のような外観だ。これに充放電を繰り返す制御ユニットを取り付け、中のセルやモジュールのエージングテストを行う。データロガーのような機械でエージング中の特性、インピーダンスの変化などをログできるチャンバーもある。通常の環境試験器はレバー式のロックドアだが、バッテリーテストを行うチャンバーはネジ式のロックが2か所以上ついている。バッテリーは発火・爆発の危険があるからだ。
リチウムイオン電池の火災は消火が難しいとされる。たくさんのセルが集積されたエネルギーの塊なので、全体の不活化がしにくい。発火がおさまってもエネルギーがあればすぐに発火するし、一度壊れた構造から連鎖的にセルが発火、爆発することもある。有効なのはとにかく温度を下げることで、放水を続けるか、液体窒素などで不活化する。
バッテリー安全認証センターのバッテリー用チャンバーやバンカーでは、液体窒素の消火装置が必ず備わっている。液体窒素による消火は酸素供給も遮断できる。
温度試験、充放電試験の他は、落下試験、振動試験、圧壊試験、熱衝撃試験(低温・高温を急激に切り替える)、釘さし試験、短絡試験、高圧・低圧試験、水没・塩水没試験などを行う設備がある。
単純な充放電試験でも、EV用バッテリーはサイズ、出力ともに大きいので、チャンバー自体も大型になる。消火設備は前述のとおりだが、電源設備も100Ah大型化されている。外部ショート(短絡)を試験する装置は、20万Aという巨大なサーキットブレーカーついている。
圧壊試験では100kNmもの圧力をかけることができるそうだ。圧力をかけたバッテリーは内部が不安定になっているので、発火していなくても完全に不活化(失活)させる必要がある。圧壊試験の装置は1000kNmまで圧力をかけて失活させる処理も行うという。
これらの試験を行う部屋はダンパー室と呼ばれる構造になっており、鉄扉にコンクリの壁で覆われている。天井には圧力を抜くためのベント機構もある。
これらの試験はすべてUN ECE R100-02. PartIIに定められた項目のデータをとるために行われるが、バッテリーの違いは考慮されない。あくまで2次電池としての安全性能の評価を行うものだ。NMCよりLFPのほうが発火しにくい、といった一般論とは別に、認証を受けたバッテリーなら一定の基準を満たしているので、どちらが危険、安全ということはいえない。
ただ、メーカーのポリシーや内部の安全基準によって、テスト項目や条件は変わってくる。UNの基準を満たせばよいとするメーカーと、それ以上の基準でテストしているメーカーでは、やはりリスクは異なるはずだ。
現状、自動車用バッテリーについて、電子機器の「技適」(PSEマーク)のような認証ロゴ制度はない。バッテリーメーカーや自動車メーカーは、このセンターやテュフグループのような第三者認証機関が計測したデータシートを保存・公開することで品質保証する形だ。