5G時代に反転攻勢を狙うソニーモバイルのXperia――岸田社長「構造改革のフェーズは、ついに終わった」
コンセプトを刷新した「Xperia 1」の登場から、約1年が経った。その後継機となる「Xperia 1 II」は、ソニーモバイルが送り出す初の5G対応スマートフォンとして、5月以降に発売される。日本では、ドコモとauが導入を決定。センサーサイズを1/1.7インチに大型化したことや、秒間20連写の機能など、ソニーがαで培った技術を惜しみなく投入し、発表時には大きな話題を集めた。
一方で、ソニーモバイルのスマートフォンビジネスは、必ずしも順風満帆ではなかった。構造改革によって販売台数は急落しており、2019年度は通期の販売台数が350万台になる見通しだ。ソニー・エリクソン時代は、億単位の携帯電話を販売していたことを考えると、大幅な事業縮小と言っても過言ではない。
ただし、この販売台数縮小は、構造改革のために販路を集中するなどした結果だ。2020年度は黒字化を公約しており、5G時代に反転攻勢をかけていく方針を打ち出している。新コンセプトの下で初めて5Gに対応したXperia 1 IIは、そんなソニーモバイルを象徴する製品とも言えそうだ。では、5G時代に同社はどんな手を打っていくのか。ソニーモバイルで代表取締役社長を務める岸田光哉氏に話を聞いた。
ソニーモバイルの代表取締役社長を務める岸田光哉氏。なお、昨今の事情を踏まえ、インタビューはリモートで行った――Xperia 1を発表した際には、「最大手と同じ戦略は捨てた」という趣旨のことをおっしゃっていました。その戦略は、Xperia 1 IIでも変わっていないのでしょうか。
岸田氏数量だけではなく、「Xperiaとは何なのか」をトコトン議論して再定義したのが、Xperia 1以降のXperiaです。これは、「5」も「1 II」も同じで、今後出していく商品もそう。好きを極めた人に直接刺さるようなモノ作りをしながら、コミュニケーションをお届けしていきたい。そこは変っていません。
ただし、そうは言っても、過去のプレミアム路線とも一線を画しています。好きを極めた方々がほしいものは、全部が全部、トップエンドの商品ではない。2020年度からは、明確にそれも打ち出しながらやっていこうと考えています。例えばゲームが好きな方、音楽が好きな方に向けた商品があれば、(ハイエンドではなくても)そういったものをお届けするという戦略です。
――ある意味ユーザーを絞り込む戦略にも思えますが、Xperia 1 IIは反響が大きく、万人受けしているように見えました。
岸田氏Xperia 1 IIも、ミドルレンジの「Xperia 10 II」も、ものすごく反響が大きく、いい感触を持っています。万人受けというよりも、皆さんがご自身の好きを極めている証拠ではないでしょうか。Xperia 1 IIは、初代を出すときにやりきれなかったことを、トコトン追求して、盛り込んできました。ずっとXperiaをお使いになられてきた根強い方々の、「ここは直してほしい」という声も、相当勉強しました。その1つが3.5mmのイヤホンジャックですし、よりXperiaらしいシェイプもそうです。隅から隅までもう一段こだわりぬいたのが、Xperia 1 IIです。
2月に発表したXperia 1 II。中止となったMWC Barcelonaでお披露目する予定だった一方のXperia 10 IIは、海外モデルとして導入していた「Xperia 10」の後継機です。国内では「Xperia Ace」や「Xperia 8」がありましたが、今回はXperia 10 IIとして、中価格帯でも好きを極めた方々にしっかり刺さる商品が導入できました。こちらについても、今まで以上に反響が大きいと感じています。
ミドルレンジモデルのXperia 10 IIも、日本で発売される――商品としてはXperia 1から、非常によくなった印象を持っている一方で、販売台数は減り続けています。黒字化したあとは、どのようにしていくお考えでしょうか。
岸田氏公約として掲げているのは、2020年度にセグメントとして黒字化することです。今日現在でも、第1四半期、第2四半期、第3四半期は黒字ですが、第4四半期に構造転換を図っていることもあり、2019年度通期では赤字を計上する見込みです。2020年度の黒字化に向け、一致団結してがんばっているというのが今日現在の姿です。
おっしゃるように、2019年度の販売台数は350万台(予想)です。数年前はもちろんですが、ソニー・エリクソン時代の数字からすると、本当に小さくなった実感はあります。いたずらに数を追う戦略ではないものの、やはりスマートフォン事業として、リーズナブル(合理的)なレベルの数字はあると思っています。ただ、350万で底を打った感もあります。過去のように急激な成長や、急激な凋落は繰り返しませんが、緩やかな成長に向けて舵を切っていきたいと考えています。
メインになっている国内市場や欧州、香港、台湾市場には、まだまだたくさん、Xperiaを愛し、使っていただいている方々がいます。我々には、そういった方々に対し、今の時代に合ったXperiaをお届けする義務があります。
――今、海外市場のお話がありましたが、縮小した規模でいうと、海外市場が大きかったと思います。ここについては、再参入などもあるのでしょうか。方針を教えてください。
岸田氏重要なマーケットの国内に加え、欧州、香港、台湾はより一層強化していきたいと考えています。また、昨年は、Xperia 1をベースにして、結構な数のミリ波とSub-6に対応した試作端末を作り、世界中のオペレーターに使っていただきました。昨年12月には、NBC Sports、Verizonと一緒に、テキサスで行われたNFLのフットボールで、リアルタイムでの映像伝送の実証実験をやらせていただき、成功したことを発表しています。
プロ用のカメラに5G対応の試作機を装着。NBC Sports、Verizonと共同で実験を行った。写真はCESでの展示技術の開発については、ものすごく重要なイシューだと認識しています。2018年に私が着任した直後に確認したのは、ソニーモバイルがミリ波やSub-6について、RFも含めた通信技術の開発をしっかり行っていることでした。それを確認できたのは、事業を推進していく自信にもなりました。
事業としては、残念ながら身の回りを整理整頓し、体制を作り直していく中で、一部の海外市場から撤退せざるをえませんでした。ただ、お客様やお客様の使い勝手につながるエンドツーエンドのアプリケーションなどは、しっかり見極めていきます。ミリ波で重要な市場であるアメリカも視野に入れながら、戦略を練っていきたいと考えています。
4月1日付けで、国内の営業部隊をソニーの営業部隊と合体させることができました。ソニーモバイルと撤退した地域についても、ソニーとして再参入することは視野に入れています。これについては、十分な計画を描き、一歩一歩進めていきたいですね。
――ひるがえって国内市場を見ると、電気通信事業法の改正でハイエンドモデルの市場が縮小しています。Xperia 10 IIの投入も、こうした市場動向と関係があるのでしょうか。
岸田氏エントリーレベルの商品を出したいということは、着任当初から言ってきていたので、法改正とは直接的に関係はありませんが、法改正によって、プレミアム価格帯の商品は、本当に好きを極めたものでないと買っていただけなくなりました。プレミアムのカテゴリーのボリュームそのものが、昨年と比べて小さくなっていることは、見て取れる状況です。そこが端末メーカーにとってどうかと言われると、本当に厳しいことです。その中で、いかにして勝ち抜いていくべきか。改めてソニーらしさ、Xperiaらしさを極めていかないと、商品を選んでいただけなくなります。
5Gについて、どういう対応が取られるのかも大きなところだと思っています。やはり、日本の電波環境は世界で最高だと思っています。私も色々な国に行きましたが、ここまで電波の品質が高い国はほかにない。5Gはたまたまローンチのタイミングが少し遅かったので、「遅れている」という論調もありましたが、ローンチのタイミングうんぬんではない。導入したら、どこよりも高いクオリティにする技術力をお持ちで、そこにすべてを賭けているのが日本のキャリアです。
――今回、Xperia 1 IIはSub-6のみの対応で、ミリ波対応のXperia PROは映像制作用という位置づけでした。今後も、こうした使い分けをされていくのでしょうか。また、4Gのみのスマートフォンは、いつまで続けていくのでしょうか。
岸田氏どうするのかはオペレーターのインフラ移行と密接に関わってきますが、我々自身は、ミリ波にせよ、Sub-6にせよ、最先端のアプリケーションが使える端末を開発し続けていきます。欧州はSub-6だけの国が多いですし、国によって、ミリ波をやるかどうかはまちまちです。日本のように、両方やることを表明している国はユニークですが、その国ごとの特性に合わせて、最適な端末を作っていきたいと思います。
ただ、2020年の断面で言うと、グローバルで、ダウンリンクを高速、大容量にすることが中心になっていて、アプリケーションもそこに特化しています。Sub-6では、画像や映像をダウンリンクでお楽しみいただけるアプリケーションが、Xperiaの中心になります。一方で、ミリ波は、エリアやスポットが当初は限定されるため、それを使ったアプリケーションも見極めていかなと、よさが伝わりません。そのため、2020年段階では、アップリンクを使うプロユースのところにフォーカスしました。
たとえば、NBC SportsとVerizonとはスポーツをリアルタイムで映像伝送する実証実験にもトライしました。また、欧州のマラソンでXperiaの試作端末をジンバルにつけ、そのまま配信するところまでできることを確認しています。ミリ波のネットワークが存在する場所は限られていますし、オペレーターと調整したうえでやれる場面も限られています。ですから、2020年の断面では、そういった使い方に特化するという意味で、「Xperia PRO」の開発を発表しました。
とは言え、個人的には、Xperia PROを本当に早く使ってみたいと思っています。すべてが詰まっているので、(ユーザーにも)ぜひお使いいただきたいですね。
ミリ波対応モデルとして、Xperia PROの開発を表明した――Xperia PROはカメラに装着したときの形が、プロ用機材のような形で印象的でした。5G時代になり、フォルダブルスマートフォンも登場するなどして、端末の形状も徐々に変わりつつありますが、それについてはどうお考えですか。
岸田氏議論を尽くして極めていきたい領域です。確かにXperia PROは、一眼レフカメラやプロ用のビデオカメラ機材に搭載したらどう映るのかを考え抜いて開発しました。それは外見だけでなく、中のアンテナ部分までトコトン追求しています。画面サイズもそうですし、折りたたみも含め、技術としては色々なものを検討していく必要があります。昨年、たまたまテレビで聞かれたときに「折りたたむ前にできることはたくさんある」と答えて話題になってしまいましたが、2画面対応やAIベースのアプリケーションなどなど、やるべきことはたくさんあります。そういったことを極めていきたいと考えています。
また、先ほどお話ししたように、販売に関してもソニーと一緒になり、モバイルカンパニーは、カメラやテレビ、オーディオ、プロフェッショナル機器などを扱うソニーの部隊と同じ傘の下に入りました。スマートフォンの形をちょっとずついじっていくよりも、ソニーグループが総力を挙げて、5Gの世界とは何なのかを追求していく方が、お使いになる方、プロの方々の要求を満たせるのではないかと思っています。今、こういう形の商品を出すとは申し上げられませんが、そういった目線で、色々なものに5Gが入るソニーの世界を作りたいと考えています。
――今、AIベースのアプリケーションというお話がありましたが、他社の端末を見ると、カメラをAIで強化するという動きがかなり活発になっています。一方でXperiaは、どちらかというとハードウェアの進化を強調している印象もありますが、スマートフォンにおけるAIの活用についてはどのようにお考えなのでしょうか。
岸田氏AIはソニーグループの重点強化領域で、R&Dの根っこからやっていく動きをかけています。Xperia 1 IIでは、瞳AFのリアルタイム追尾にも、AIのプレディクション(予測)が入っていますし、オーディオについては、ハイレゾの音響再現能力を極限まで上げる「DSEE Ultimate」は、AIで高域の再現性を最適化しています。どこにというより、それを使って最適化できるところには、積極的に入れていく目線です。
確かにGoogleのように、AIで映像を加工するという目線もあり、その動きについては我々も深く研究しています。ただし、今出す商品、今出すXperiaについては、(それを入れると)我々のカメラ作りの軸がブレてしまう。技術的な勉強や研究は続けていきますが、やはりキレイなものをそのまま撮り、いかにリアルに再現するのかというところに、ソニーグループとしてのカメラの真骨頂があります。
カメラだけでなく、音質向上にもAIが使われているという――今回、Xperia 1 IIの発表と同時に、ZEISS社との戦略的提携も発表しています。ここには、どのような意味があるのでしょうか。
岸田氏私自身も、カムコーダーの初期のころにZEISSとの交渉を担当していました。当時の事業責任者が「ZEISSを搭載したい」と言い出したので(笑)。当時からZEISSとは長くやってきていますが、今日現在では、αなどのカメラで協業が進化しています。そのような形で、スマートフォンのカメラのレンズの世界を、もう一段進化させることに一緒に挑戦したいということで、彼らからも快諾をいただきました。今回はソニーのカメラチームの助けで道先案内をしてもらい、一緒にやっていく発表ができました。ここを入り口として、スマートフォンのレンズの世界でもう一歩進んだ革命が起こせるよう、議論を深めていきたいと考えています。
Xperia 1 IIは、レンズにZEISSブランドを冠した――最後に、岸田さんが着任してから丸2年が過ぎました。構造改革続きの2年だったと思いますが、現状はどの程度、ゴールに近づけているのか。自己評価をお聞かせください。
岸田氏自分自身でもレビューはしていますが、これからは総仕上げに入っていきたいですね。2020年度に黒字化すると公約し、改革を行ってきました。販売体制の改革、生産体制の改革、調達の改革、開発や固定費の改革などです。その結果、2020年度いっぱいまでかけてやろうと計画していた構造改革は、すべて2019年度まででやり終えることができたと思っています。
一致団結してやっていくことが大切なので、毎週、部門長以上の人間とは会議を行いました。1週も欠かさずです。辛い話も多かったですが、それも含めてすべてをテーブルの上に乗せてきました。会議は職種を問わずやってきました。企画の人が生産の人の話を聞いても関係がないかもしれませんが、ソニーモバイルとして一緒に角を曲がりたかった。その構造改革会議も、2019年3月末に、本日をもってすべて終了すると宣言することができました。身を切ってやっていく改革モードを、今日で終了するという意識合わせをしたのです。
先ほどお話ししたグローバルでの対応にも当てはまりますが、これからいよいよXperiaを、世界中で待っていただいている方に力強くお届けするフェーズに入っていきます。今回発表したXperia 1 IIやXperia 10 II、Xperia PROもそうですが、まだまだ色々な商品を計画しています。2018年にビジョンを作ったときにやり直そうとしたスタイルは、着実に実現できています。そこには、ぜひご期待いただき、応援していただければと思います。
――本日はどうもありがとうございました。
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